「サッカーの敗北」した日…ウルトラスとクラブの根深い問題

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12月1日のスペイン紙『アス』の一面には「サッカーの敗北」というタイトルが掲載された。11月30日に行われたリーガ・エスパニョーラ第13節アトレティコ・マドリード対デポルティボ戦の試合前に両チームの過激派サポーターであるウルトラスが衝突し、一人が死亡した。その事件を「サッカーの敗北」と報じた。

 この日、アトレティコ・マドリードのウルトラス『フレンテ・アトレティコ』はベンガル花火、刀、バットなどを装備して、8時にビセンテ・カルデロンに集まっていた。30分後、デポルティボのウルトラス『リアソール・ブルース』を乗せたバスが到着。彼らも戦闘の準備をしていた。両グループはビセンテ・カルデロン近くのマンサナレス川沿いで衝突。ラージョ・バジェカーノ、アルコルコンという同じマドリッドに居を構える他チームのウルトラスも含め、約200人が参加していた。近隣住人の通報を受けた警察は現場に到着したが、ウルトラスの数が多く、彼らも対岸から見ているしかなかったという。

 この戦闘で『リアソール・ブルース』のフランシスコ・ホセ・ロメロ・ダボダ氏という43歳の男性が命を失った。彼はマンサナレス川に落とされ、心肺停止。病院に運ばれたが、試合が終了した14時に亡くなったことが発表された。死因は川に落とされたことではなく、鉄棒で殴られた外傷だった。12人が負傷、12月3日現在24人が逮捕され、一人が亡くなった。

昨シーズン、アトレティコ・マドリードがリーガ制覇をなし遂げた2014年5月18日にラ・コルーニャでひとつの騒動が起こった。ラ・コルーニャで何人かのアトレティコサポーターが愛するチームの優勝を祝い、騒いでいた。彼らはデポルティボが重要な勝利を手にした時にサポーターが集まるクアトロ・カミノス噴水広場でも騒いだ。それをデポルティボのウルトラスは許せず、騒ぐアトレティコサポーターを襲撃した。

 それが今回の事件の事の発端だ。その時の決着をつけるために今シーズン初めて両者が対戦するゲームでウルトラス同士が衝突する計画を組んでいたという。両者は携帯電話のチャットツールでやりとりをしていたようで、プロリーグ機構も、政府のスポーツ省もこのカードを危険度が高いゲームに指定していなかった。

 この衝突を受けて、アトレティコ・マドリードのエンリケ・セレソ会長は「この事件はサッカーとは関係のないことだ」と憤慨した。しかし、いくら会長が公の場でそう発言しようとも、ウルトラスとサッカーは密接に関係していることは厳然たる事実であり、皆が知っている。

転売目的と分かっていながらもチケットを譲ったり、アウェー遠征のために経済的援助をしたり、クラブのグッズの販売を認めたりしてきた。ウルトラスは熱狂的にチームを応援するという名目で、愛するクラブの周りに生まれる金目当てに活動している。

 この事件を受けて、アトレティコ・マドリードは南スタンドを埋める『フレンテ・アトレティコ』を追放することを決めた。入場時に身分証明の提示を徹底し、取り締まるようだが、この事件が起きるまではクラブは本格的にウルトラス廃絶に取り組もうとはしていなかった。2005年に不甲斐ないチームに対して『フレンテ・アトレティコ』がトレーニング場を襲撃し、選手や監督を脅迫したが、それでもクラブは追放に積極的ではなかった。

 デポルティボも『リアソール・ブルース』が陣取るスタンドを2試合閉鎖することを発表した。しかし、彼らもウルトラスを放置していた。昨シーズン限りで退任したレアンドロ元会長は、最後のゲームでウルトラスの名前が入った記念のプレートを贈られていたと『アス』は報じている。

ウルトラスを追放するにはクラブも相当の覚悟が必要だ。バルセロナのラポルタ前会長はウルトラス『ボイショス・ノイス』をカンプ・ノウから追放した。スペインでウルトラス追放を標榜した初めての会長だ。金銭的な援助も、チケットも渡すつもりもないと断言した。これに対して『ボイショス・ノイス』はカンプ・ノウやラポルタの自宅に落書きをし、2004年3月にはハンドボールを観戦後、会場を出たラポルタに罵声を浴びせ、襲撃しようした。

 ラポルタはボディガードを雇わなければならなくなった。ラポルタはウルトラスからのそんな重圧に耐え、ソシオや自治体の支持もあり、少しずつカンプ・ノウからウルトラスは排除されていった。チャンピオンズリーグトロフィー同様にこの功績を称えるバルセロニスタ、メディアは多い。

 しかし、ラポルタの努力は水の泡となっている。ラポルタの後に会長となったサンドロ・ロセイは、前会長が排除したゴール裏を主に若者向けのゾーンとした。現在その場所には徐々に『ボイショス・ノイス』のメンバーが戻ってきているという。現在、新たなに次期会長選への立候補が予想されるラポルタだが、彼が手を挙げた時に『ボイショス・ノイス』から新たに脅迫が届く可能性は高い。

 1982年からこれまでに、スペインではサッカースタジアムでの暴力で11人が亡くなっている。今回の事件をきっかけに各クラブはウルトラスの取り締まりを強化するだろうが、継続しなければ根絶はできない。短期間で集中的に取り上げる“ブーム”で終わってしまっては、また新たな犠牲者を出すに違いない。現実にこれまで10人の死亡者を出していながら廃絶は進んでいなかった。この事実がウルトラスの問題の奥の深さを物語っている。

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