バルサ流砕く超高速カウンター サッカー潮流に変化

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2013~14年の欧州の主要リーグが終了した。あとは24日にレアル・マドリードとアトレティコ・マドリード(ともにスペイン)が激突する欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝を残すのみ。今シーズンの強豪チームの戦いを振り返ってみると、サッカーのトレンドの変化の兆しが見えてくる。

■ポゼッション打ち破る方法考え抜く

 近年、世界のサッカーを引っ張ってきたのがバルセロナ(スペイン)であるのは間違いない。ボール保持を大事にし、ショートパスの連続で相手守備を崩しきるポゼッションサッカーを志向し、08~09年、10~11年の欧州CLを制覇。そのサッカーをスペイン代表も取り入れ、08年と12年の欧州選手権、10年のワールドカップ(W杯)で優勝を遂げた。

 ポゼッションサッカーは世界の最先端とされ、日本を含め各国のチームがスペイン流、もとを正せばバルセロナ流のサッカーを追い求めてきた。

 スペインリーグにおいて、レアルやアトレティコは、そのバルセロナを打ち破る方法を考え抜いてきたと言っていいだろう。言い方を変えると、バルセロナとは違ったサッカーでナンバーワンになることを練ってきた。

 バルセロナは基本的にハイボールを蹴らない。縦のロングボールだけでなく、サイドからも単純なハイクロスは送らない。ボールを細かく動かして相手を揺さぶり、最終的にはペナルティーボックスの中を短いパスで崩そうとする。

■余計な横パス省き、少人数で攻め完結

 だから、多くのチームがバルセロナ対策として、中央を固めるという方法をとってきた。ゴール前に人数を割いてスペースを消し、バルセロナを外に追い出すようにする。モウリーニョ監督(現チェルシー監督)が率いていたインテル・ミラノ(イタリア)などは、その戦法を徹底し、耐久戦でバルセロナを破っている。

 しかし、それだけではバルセロナを倒す確率は上がらない。守りを固めているだけでは、勝つために必要なゴールをなかなか奪えないからだ。

 ではどうしたらいいのか。その答えが今季のレアルとアトレティコのサッカーに表れている。レアルは決勝でバルセロナを破り国王杯を制した。アトレティコは18年ぶりにスペインリーグを制覇した。

 この2チームはともに超高速カウンターを戦いの基盤としている。ボールを奪取すると、余計な横パスを省き、少ない人数で攻めを完結させる。

 特にレアルは、ボール奪取後に最初に送る縦パスの場所を決めているのだと思う。そこにパスが届く前に、もう1人が猛烈なスピードで駆け上がる、という具合にすべてがオートマチックにできている。おそらく高速カウンターの練習を相当、こなしている。

■スピード・技術の傑出者そろってこそ

 もちろん、このサッカーはスピードと技術が傑出した選手がそろっていないとできない。レアルにはロナルド、ベイル、ディマリア、ベンゼマがいる。アトレティコにはジエゴ・コスタ、アドリアン、アルダ、ラウール・ガルシアらがいる。彼らが高速のボールの流れの中で、ミスなく少ないタッチでパスをつなぐ。

 バルセロナはボールを失うと、ただちに守備に転じ、組織で相手を囲み、ボールを奪い返す。奪った側が横パスを入れていると、バルセロナに引っ掛けられてしまう。だから、そこを回避して一気に30~40メートルの縦パスを前線に送る。それだけのパスを正確に蹴る技術がないと、このサッカーは成立しない。

 とにかく時間は掛けず、1、2本、多くても3本のパスでフィニッシュに至る。バルセロナはほとんど2バックの状態で攻撃に人を割くので、裏にスペースはある。そのスペースを抜群に速くて、うまい攻撃手が突く。

■考えにくいポゼッションサッカー衰退

 今季の欧州CLは非常によくできたカウンターを主武器とするレアルとアトレティコが、ポゼッションサッカーのバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)を破って決勝に進んだ。

 この両チームが磨いてきたサッカーが今後、世界の主流になるのだろうか。ブラジルW杯後の欧州サッカーはそこが見どころになる。

 もちろん、これはどこのチームでも可能なことではない。速くて、うまい選手が必要になる。狂いのないロングパスを蹴れるCBやMFもいなければならない。

 それは別にして、ポゼッションサッカーの衰退も考えにくい。理論的にポゼッションサッカーの優位性は明らかだからだ。

 サッカーはボールが1つ。この条件では、ボールを保持している限り、相手に攻められることがない。保持率が高ければ、攻撃する頻度が高まる。それを考えると、みんながそろってポゼッションサッカーをやめてしまうとは考えにくい。おそらく今後は競って、効率の良いポゼッションサッカーを目ざすのではないか。

■バルサ、パスの無駄を排除し逆襲か

 ポゼッションサッカーというのは短いパスワークの中で、味方に縦パスを当てて、戻すということを繰り返す。そうやって相手を誘い出す。つまり、誘いのパスを必要とする。無駄が多いとも言える。だから、ときに「いくらパスをつないでも、点は入らない」と言われる。

 その無駄をなるべく排除し、効率的なボールの動かし方を考えていかなくてはならない。バルセロナやバイエルンはそうやって逆襲に転じようとするのではないか。

 その前に、今季の欧州王者を決めるレアルとアトレティコの戦いがある。決勝は一発勝負であって、互いに相手を知り尽くしている。しかも同じようなサッカーを志向している。試合が硬直化する可能性が高いと思う。

 間違いなく、アトレティコは守備に重きを置いたサッカーをしてくる。それがシメオネ監督のサッカーのカラーであるし、攻撃の核であるジエゴ・コスタが故障を抱えていることが影響してくる。個人の力で言えばレアルが上なのだから、アトレティコは守備を第一にせざるをえない。

■欧州CL決勝、胃が痛くなる神経戦に

 もしかするとマンツーマンマークに近いことをするかもしれない。そうやってレアルの選手をいら立たせる。シメオネ監督なら、格好はつけず、そういう泥臭いことを平気でする。それによって試合がとてつもなくつまらないものになる可能性もある。

 守りを固めるアトレティコに対して、レアルは選手の並びまでいじって、戦い方に変化をつけてくるかもしれない。シメオネ監督もレアルのアンチェロッティ監督も相手を分析し、その持ち味を消すことにかけては超一流だ。

 それほど多くの点は入らないだろう。最初の1点で流れが決まるかもしれない。見ているほうも胃が痛くなるような、神経戦になるのは間違いない。

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