ロンセーロ×マノレテ、『アス』名物記者によるマドリッドダービー談義(下)

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熱狂的マドリディスタのトマス・ロンセーロ氏と、アトレティコ・マドリーと苦楽をともにするマノレテ氏によるデルビー・マドリレーニョ(マドリッドダービー)談義。上編では脱線を繰り返したが、この下編で両者の視線は、家族とともに赴く約束の地リスボンへと向き始める。

―ロンセーロ氏は、カルロ・アンチェロッティについてどのようにお考えでしょうか?

ロンセーロ(以下R): 「彼の就任直後に、はっきり意見を言えなかったことは認めるよ。ジョゼ・モウリーニョという時の人の後任としては、あまりにも謙虚で、実績も少し劣るように感じたからね。だが彼を深く知ることで、他チームに嫉妬を感じる必要などなく、むしろマドリーにとって最適の監督だという確信を持った。モウリーニョというサイクロンが過ぎ去った後にアンチェロッティを招聘することは、最も整合的な判断だったはずだ。彼はマドリーを2002年のグラスゴー以来となるチャンピオンズ決勝に導いた」

―イタリア人指揮官は、リーガで急激な失速を見せたことで批判も受けていますね。

R: 「何より重要なのは“ラ・デシマ(10度目の欧州制覇)”の達成にほかならず、マドリディスタスはアンチェロッティに信頼を寄せなくてはならない。それに現状はそこまで悲観的になる必要もない。“ラ・セプティマ(7度目)”を達成した1998年には首位バルサと勝ち点11差の4位でリーガを終え、2000年の“ラ・オクターバ(8度目)”では首位デポルと7差の5位、2002年の“ラ・ノベナ(9度目)”では首位バレンシアに9差をつけられて3位で終えた。この法則通りなら、我々はアトレティコを倒せるはずだ。“ラ・デシマ”を勝ち取りさえすれば、リーガの痛みなど誰も思い出さなくなる」

―マノレテ氏は、ディエゴ・シメオネについてどのような意見をお持ちでしょうか?

マノレテ(以下M): 「ルイス・アラゴネスと並び、アトレティコ史上最も重要な人物となった。それは彼が挙げている成果ではなく、チームの顔つきを変え、進むべき道を示したことによってだ。現役時代の彼はアルゼンチン人選手の典型で、狡猾かつピッチ上での争いにすべてを懸けていたね。アラゴネスの『勝って、勝って、また勝つ』という言葉のように、勝利に近づくためにはどのような手段でも価値を持つということを体現していた。人々はその姿勢に呼応したからこそ、『オレ! オレ! オレ! チョロ・シメオネ!』と心の底から叫び始めたんだ。現チームの選手たちは、あの頃のシメオネを彷彿させる」

―マノレテ氏にとって、アトレティコ史上最高の時期はいつだと思いますか?

M: 「今、今、今しかないじゃないか。昨日から今日、今日から明日、明日から明後日、“試合から試合へ”だ。現在の私たちは夢という日常を過ごしている。アトレティコの110年にも及ぶ歴史の中で、選手たちの戦う意思がこれだけ強調され、安心した気持ちでカルデロンに向かえるのは今だけだ。1974年のバイエルン・ミュンヘンとのチャンピオンズ決勝を落としてから、アトレティコは“プパス(悪運)”と呼ばれるようになった。だが今季に、ようやくその呼称が取り払われるのかもしれない。我らがシメオネは、アトレティコを本来位置すべき場所に戻したんだよ」

―チャンピオンズ決勝を落とすことで、今後も“悪運”がついて回るかもしれません。

M: 「何が起こっても、私からは『グラシアス、グラシアス、グラシアス、グラシアス…』と言うだけだよ。今季のアトレティコはクラブ史上最多となる勝利数と得点数を記録し、CLでは一度も敗戦することなく、最少失点で決勝まで到達した。決勝で勝てるならば、もっと幸せだが、今季の感動的な物語はすでに成り立っている。いや、どの試合を振り返っても、何かしらのドラマが存在していたよ」

―ロンセーロ氏にとって、チャンピオンズ決勝の理想的な対戦相手はアトレティコとバルセロナのどちらでしょうか?

R: 「マドリー対バルサも素晴らしい対戦カードであったはずだ。マドリーはコパ決勝で彼らを打ち破ったし、バルサはリベンジを狙ってきただろうからね。しかしながらマドリディスタスにとっては、アトレティコとチャンピオンズ決勝で戦うことも大きな魅力だ。ここ数年間のライバル関係で言えば、バルサとの対戦最も望ましいのだろうが、今季の彼らとの勝負はコパ決勝で決着がついている。それに昨季のコパ決勝ではベルナベウを舞台にアトレティコの勝利を許しており、その借りをチャンピオンズ決勝で返せるならば最高だ。マドリーは12年にわたって“ラ・デシマ”を渇望し続けているが、一方でアトレティコは彼ら自身も予期していなかった初優勝を目指している。優勝へ向ける意欲は我々の方がはるかに強く、彼らは違うシーズンにでも優勝を果たせばいいんだ。ただ、現在のアトレティコは闘争心が前面に押し出されたチームで、ここ最近のクラシコよりもはるかに困難な一戦を強いられるだろう」

―マドリーの歴史的なライバルは、バルサではなくアトレティコとされていますね。

M: 「私から説明させてもらうよ。マドリーのチャンピオンズ5連覇の立役者アルフレッド・ディ・ステファノやフロレンティーノ・ペレスが最も敬意を表し、恐れを感じていたのはアトレティコだ。マドリーはコパを中心としてアトレティコにタイトル獲得を阻まれてきたしね。マドリディスタスとアトレティコスは同じ街に共存しながら、子供の頃からライバル意識が育まれる。トマスがさっき話していたが、ペップ・グアルディオラがバルサを率いたことをきっかけに、ここ数年はマドリーとバルサのライバル関係が強調されるようになった。だがアトレティコとマドリーのライバル関係は、決して薄れることがないものなんだ」

R: 「マノレテの言っていることは事実だよ。1960~75年の間、バルサはリーガで一度しか優勝を果たすことができず、マドリーとアトレティコでタイトルを分け合った。マドリーの方が優勝の数は多かったが、アトレティコも3~4年に一度トロフィーを掲げていたね。もちろん世代にもよることだが、同じ街のチームを最大のライバルと捉えるマドリディスタスとアトレティコスが多数を占める。以前のバルサは大金を使って選手を獲得していたが、いつも失敗を犯して混沌の渦に沈んでいった。彼らが典型的な金満クラブであったのに対して、マドリーとアトレティコは選手たちが一枚岩となって多くのタイトルを手中に収めていたんだ。だがグアルディオラのバルサがその状況に変化をもたらし、ここ数年のマドリーとバルサのライバル関係はスペイン、引いては世界レベルで強調されるものとなった。ただ最近のバルサは落ち目とも言えるような状況にあり、今回のチャンピオンズ決勝によって流れは変化するのかもしれない。アトレティコの復活は、私にとっても喜ぶべきものだ。もちろん、2部にいてくれる方がずっと良いがね」

―今回のデルビーは、どのような試合になると思いますか?

M: 「“チョロ(シメオネの愛称)”が言うには、『決勝はプレーするのではなく、勝つもの』なんだよ。選手たちはピッチ上で死ぬ覚悟を固めているだろう。自分は死にたかないが、そのようなチームを見るだけで幸せだ。アトレティコのファンとして、何かを思い切って言うことなどできやしない。これまでの試合と同様に、最後まで苦しみ抜くだけだよ。ただシメオネが率いる選手たちは、私たちの期待を絶対に裏切らない。最後の最後まで戦う意思を示してくれるさ」

R: 「はっきり言わせてもらうが、私は“ラ・デシマ”を獲得するためにチェルシーの決勝進出を望んでいた。シメオネのアトレティコはロボトミー手術を受けたチームであり、モウリーニョが指揮するチェルシーよりも厄介だ。優勝の本命はアトレティコと考え、マドリーは謙虚さでもって、その予想を裏切らなければならない。コパ決勝ではバルサ、チャンピオンズ準決勝ではバイエルンが本命と予想されたが、マドリーはその逆境を打ち破ってきた。我々はチャンピオンズ決勝という舞台で、三度本命を葬り去る必要があるんだ。だが1997-98シーズンのユヴェントス、1990-00シーズンのバレンシア、2001-02シーズンのレヴァークーゼンと、マドリーとチャンピオンズ決勝で戦ったチームは『決勝はプレーするのではなく、負けるもの』であることを実感することになった。アトレティコもそう感じことになる」

M: 「アトレティコが本命ね…。馬鹿じゃないの?」

―お二人はリスボンに向かうのですか?

R: 「当然。マノレテも行くよ。二人とも家族連れでね」

―記者としてではなく、ファンとして観戦する予定でしょうか?

M: 「トマスはイエス。私はノーだ」

R: 「馬鹿なことを言わないでくれ。もちろん記者としてだ。私は入場できるが、家族はリスボンにつくられるマドリーのファンゾーンで観戦する」

M: 「トマスはケチ臭い人間なんだよ」

R: 「私はマノレテと違い、コネを使って家族のチケットを確保するような人間ではないんだ。家族はチケットの抽選で外れてしまい、私にはどうすることもできない(※実際はマノレテ氏の家族もファンゾーンで観戦予定)」

―『アス』編集部内のマドリー&アトレティコセクションは隣り合わせですが、デルビー後のお二人の関係に問題は生じませんか?

M: 「私よりトマスの方が敗戦を引きずるね。マドリディスタスは生き様や誇りではなく、タイトルという現物だけを欲している。求めるべきは大金による選手獲得ではなく、チームとして勝利に向かう姿勢だが、最近のマドリーは逆の道を進んでいるんだ。現状はジレンマを増幅させるだけだよ」

R: 「今回のデルビーに負けたら、かなり落ち込むと分かっているよ。一日だけでなく、一週間以上は不満を言い続けるだろう…。チャンピオンズ決勝で傷を負えば『アディオ~ス! ア・ラ・デシマ・アディオス!(さらば! ラ・デシマよ、さらば!)』と毎日、いや毎年マノレテになじられることになる。恐ろし過ぎるよ。今だって『アディオ~ス! ア・ラ・リーガ・アディオス!』と歌われ続けているんだから…」

M: 「アディオ~ス! ア・ラ・リーガ・アディオス! アディオ~ス! ア・ロンセーロ・アディオス! …しかし敗戦を乗り越えることは難しいね。ディ・ステファノもチャンピオンズ2連覇を果たした時期に、コパ優勝をアトレティコに阻まれたことで3日間は家から出てこなかった。優勝しても喜びの絶頂で天に召されるかもしれないが、それは本望だろう。…私は死にたかないがね」

―ただ、お二人の掛け合いには互いへの敬意も感じられます。

R: 「マノレテはライバルだが、記者としては先輩でもある。アトレティコのファンらしく不満や皮肉は多いが、学ぶことだって多い」

M: 「トマスは情熱にあふれた魅力的な人物だ。確固とした信念を持ち、ときにそれが傲慢な態度として表れることだってある。しかしながらフトボルというスポーツにおけるライバルとして、私からは最大限の敬意を示したい。彼のマドリーに関する執拗な主張は、、ジエゴ・コスタがゴールを狙う姿勢と同様のものだからね。私とトマスとの健全なライバル関係が、スペインのフトボルファンを象徴するものであればいいと思うよ。一クラブに絶対的な愛情を注ぐファンの熱狂が、スタジアムを増幅器として一つの街を覆い尽くす。デルビーというものがある限り、フトボルは世界一のスポーツであり続けるだろう。とにかく、今季はビバ・マドリッド! それに尽きるよ」

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