ロンセーロ×マノレテ、『アス』名物記者によるマドリッドダービー談義(上)

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CL決勝での対決が実現 現地記者はどう見る?
熱狂的マドリディスタのトマス・ロンセーロ氏と、アトレティコ・マドリーと苦楽をともにするマノレテ氏。両氏はスペインのフトボルファンの間で知らない者などいない『アス』の看板記者2人であり、永遠に和解することのできない彼らの言い争いはこの国の日常のひとコマとなっている。チャンピオンズリーグ決勝でデルビー・マドリレーニョ(マドリッドダービー)が実現したことに際して、両者に大いに語ってもらった。

―お二人がレアル・マドリー、アトレティコに忠誠を誓った理由を教えていただけますか?

マノレテ(以下M): 「ロンセーロの理由は至極明快だね。大金をちらつかせて権力を保持する傲慢なクラブが好きなんだよ」

ロンセーロ(以下R): 「また侮辱から始めるのか…。まあ、いいさ。ファンになる理由は、生まれた街、また家族に依存するはずだ。私の父はマドリーが1955-56シーズンから5年連続でチャンピオンズカップを制覇したチームをリアルタイムで見ていた。子供だった私はその偉業を何度も聞かされ、手を引かれて通ったサンティアゴ・ベルナベウの雰囲気にも酔いしれた。物心つく前からマドリーに素晴らしい価値があると感じていたんだ。もちろんアトレティコも素晴らしいチームだった。あの頃はバルセロナの上に位置する存在で、マドリーとリーガを争っていたからね。だが心をつかまれたのはマドリーで、特にピッリ(ホセ・マリア・サンチェス)の存在が大きかった。彼は試合が残り1秒となっても絶対にあきらめることなく、白いユニフォームが血に染まっても懸命にプレーし続けていた。ホセ・アントニオ・カマーチョもそのような選手だったし、彼らのようなレジェンドが自分の心をブランコ(白)に染めたんだ」

M: 「ファンの成り立ちについてはほぼ同意見で、大多数がクラブの遺伝子というものを家族から伝えられるはずだ。ただ突然変異のように、違うクラブのファンになる場合だってある。その時代に名を轟かせるクラブに憧れを持ったり、チャンピオンズ優勝などに関係なく、一つのクラブとアイデンティティーを通わせたりね。アトレティコで例を挙げれば、1999-00シーズンに2部降格となった際にソシオの数が増え、ビセンテ・カルデロンは多くの試合で満員になった。創立100周年のイムノに『雲の上と下を行ったり来たり』とあるように、このクラブは多くの受難に苛まれてきた。しかし私たちは、ほかとは“何か違うもの”を信じているんだ。その“何か違うもの”の一つは現在、ディエゴ・シメオネが示しているはずだよ。彼は人の手で天に触れられること、金だけが価値を持っているわけではないことを証明した。私たちは2週間おきにカルデロンで一堂に会し、大きな喜びを分かち合っているんだよ」

―アトレティコは人生を体現するクラブともされますね。

M: 「その通りだね。先ほどのイムノのサビに『何て勝ち方、何て負け方、何て苦しみ方、何て信じ方、何て夢の見方、何て死に方、何て生き方』とあるようにね。しかし『金があってもなくても我々が一番』とも歌われ、サビのラストフレーズはいつだって『ビバ! 私のアトレティコ・マドリー!』なんだよ。マドリーとの最たる違いは、パルコ(貴賓席)を見れば理解できるはずだよ。ベルナベウではとんでもなく高いスーツを着た人々、銀行や政府の人間であふれかえっている。カルデロンとは違ってね」

R: 「ふん…。マノレテをはじめ、アトレティコスはマドリーに嫉妬しているだけなんだ。ラダメル・ファルカオを4000万ユーロで獲得するなどスペインで3番目の財力を誇るクラブだが、自分たちが貧乏だと思っているから我々に敵意を向けてくる。だがマドリーは最も裕福で、最も素晴らしい歴史を持ち、最も美しいスタジアムでプレーするクラブであり、世界最高の選手クリスティアーノ・、世界最高のGKイケル・カシージャス、将来的に世界最高の選手となるガレス・ベイルを擁しているんだ。マドリーが世界最高のクラブ、ナンバー1と断言することをためらいはしない。人々をだますことなど絶対にしてはならないのだからね。マドリーこそ世界最高峰のクラブなんだよ」

M: 「いいや。マドリーが手にしている権力は不正にまみれた紛い物だね。彼らは多額の負債に苦しみ続けたが、フロレンティーノ・ペレスの第一次政権が開始した20世紀最後の年に、政治方面のコネによってパセオ・デ・ラ・カスティージャの練習場をあり得ない額(約4億ユーロ)で売却した。現在、その土地にはマドリッドの景観を損なうクアトロ・トーレス(4本の超高層ビル)が立っているが、悲哀によって涙さえ流れるよ。彼らは不正な売却収入を基にして、世界の隅々から選手を引っ張ってきたんだ」

R: 「練習場売却は合法で、マドリッド市とクラブを調査した欧州委員会も違法性はないと結論を出したじゃないか」

M: 「はいはい。完全に虚偽の情報です。どうもありがとうございました」

R: 「虚偽じゃないよ(笑)。もし違法であれば、フロレンティーノは今頃牢屋の中にいるはずだ(※欧州委員会は実際、違法ではなかったと判断している)。この話題については、ここで総括させてもらうよ。我々『アス』の編集長アルフレッド・レラーニョも、練習場売却は合法だったと記している。私から上司の意見に異を唱えることはできないし、あれは間違いなく正当な手段だったんだ」

―以前に私も取り上げたことがあるのですが、レラーニョ氏はフロレンティーノに対する批判を繰り返しています。ロンセーロ氏にとっては、心苦しいことだと思いますが…。

R: 「いいや。事実に基づいた批判を浴びせることや、プレッシャーを与えることは問題じゃない。フロレンティーノは素晴らしいことを成し遂げてきたが、スポーツ面&財政面のどちらでも過ちを犯してきた可能性がある。そのような批判はクラブの成長のためにも必要なものだよ。周囲の人間が称賛してばかりいれば、確実に道を踏み外すことになるからね。レラーニョの姿勢は共感できるものであり、何よりマドリディスモ(マドリー主義)はすべての人間の上に位置しなければならない。マドリディスモより上にいる唯一の存在は、アルフレッド・ディ・ステファノ獲得に成功し、チャンピオンズ5連覇を果たしたサンティアゴ・ベルナベウだけだ。スタジアムの名前にもなったベルナベウはフトボル史上最も偉大な会長であり、彼が亡くなった1978年のアルゼンチン・ワールドカップでは全ピッチで黙祷が捧げられた。フロレンティーノについて、彼が間違いを犯したのであれば、それに関する批判を伝えることは別に悪いことではない。彼は偉大なマドリディスタであり、クラブの前進を誰よりも強く望んでいる人物だ。しかし批判がその歩みをさらに確固たるものにするのであれば、何も問題はない。マドリーはファン、『アス』や『マルカ』といったメディアを含めて一つの家族なんだからね。喧嘩をしない家族なんてあるのかい?」

M: 「ロンセーロが語る批判の正当性は理解できるよ。例えば、右足の大腿二頭筋に問題を抱えるクリスティアーノは、ピチチやゴールデンシュー獲得のために負傷のリスクを冒してリーガの試合に出場することを望んでいる。チャンピオンズ決勝が控えているにもかかわらずね。アンチェロッティは彼のエゴイズム的な願望を抑えることはできないんだ。これこそ批判すべきことだ。ロンセーロはクラブという存在が誰よりも上に位置しなければならないと話すが、マドリーはクリスティアーノ、バルセロナはリオネル・メッシと2000万ユーロ近い年俸契約を結ぶ選手の自由を許しているんだよ」

R: 「クリスティアーノが受け取る額は正当でないと? 彼は他選手の2倍の給与をもらうに値するよ。マノレテの意見はくだらないもので、データを完全に無視している。アンヘル・ディ・マリアは今季ここまでに58試合でプレーし、一方クリスティアーノは出場停止や負傷によって12試合を欠場した。クリスティアーノは最後の試合まで全力で駆け抜けるエネルギーを残しているんだ。問題はメッシの方だろう。バルセロナに絶対的な愛を誓う彼は、11カ月毎に年俸アップを要求しているんだから」

M: 「クリスティアーノとメッシの年俸額は、どちらも恥ずべきものだよ。深刻な不況に陥るスペインで、フトボルの選手が2000万ユーロもの給与をもらっている。恥以外の何物でもない…」

―えー…。アトレティコが財政的に難しい時期を過ごしている理由は、前会長ヘスス・ヒルが行った放漫経営にあります…。

M: 「これはまた違う話になるけれど、フトボルは政治において、国民の鎮痛剤として利用され続けてきた。いや、ドラッグと言った方が正しいだろう。現在でも人々が悲しむべき生活水準に抗議することはなく、マドリー、アトレティコ、バルセロナ、またはスペイン代表の優勝を盛大に祝っている。アトレティコのカンテラ解体や公金横領などヘスス・ヒルは常識を逸した会長、また政治家だったが、フトボルは現在も何も変わっていない。資本逃避を目的とした海外の富豪のクラブ買収や、普通の会社であれば許容されない額にまで膨れ上がった財務省への債務など、フトボルはいまだに政治や利権の逃げ口で在り続けているんだ。・ヒルはフトボルをそのように利用した一人に過ぎない。現在であればサラゴサやバレンシアの買収を目論んでいる連中のようにね」

―デルビー・マドリレーニョについて話しにくくなってしまいましたが…。

M: 「今回のデルビーはスペクタクル以外の何物でもなく、人々が楽しむことだけを望むよ。ただ、また批判になってしまうが、最近にはリスボン市長がマドリッドを訪問して市やクラブとの友好を深めていたものの、リスボンのチャンピオンズ決勝当日の宿代は平均2000ユーロなど、通常5倍以上の値段に膨れ上がっている。リスボンはマドリッドの人々に大金を支払うことを強いているんだよ。しかしながら、今回のデルビーが唯一無二のものであることは変わりなく、両クラブのファンはポルトガルの首都でかつてない情熱を示すだろう。現在のマドリッドは、欧州のフトボルを代表する街という誇りに満ちている」

R: 「マノレテ、そんな話ばかりしていてもしょうがないだろう…。デルビー・マドリレーニョが欧州最高の一戦にまで昇華されたのは、フトボルの風潮の変化を意味しているはずだ。これまではバルセロナやバイエルンなどのポゼッションを重視したプレースタイルが一世を風靡していたが、彼らは準決勝でマドリッドの2チームに敗れ去っている。マドリーはクリスティアーノやベイルといったスピードある選手とともに繰り出す縦に速い攻撃を最大の武器とし、アトレティコはシメオネが堅守速攻のアイデンティティーを取り戻した。マドリッドの2チームは歴史的にカウンターを武器としてきたが、それがポゼッション重視のフトボルを再度上回ったんだ。マドリッド市民は抱き合って喜ばなければならないことだし、リスボンでは衝突しないことを望むよ。マドリディスタス、アトレティコスにとっては人生で唯一の経験になるはずだからね。勝者、そして敗者が生まれることは避けられないとしても、両チームともに称賛されるべきなんだ」

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