「あの負傷で右足を失いかけた」。アトレティコ不動の左SBフィリペ・ルイスが語る怪我からの復活とアトレティコのアイデンティティー

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チャンピオンズリーグにおいて40年ぶりにベスト4へ進出したアトレティコ・マドリー。リーガ・エスパニューラでも2位バルセロナと勝ち点4差の首位に立つなど絶好調の今シーズン。2010年からアトレティコへ加入し、不動の左SBとしてけん引するフィリペ・ルイスに話を聞いた。

2010年夏にデポルティボからアトレティコへ加入。指導を受けた3人の監督の違いとは?

――デポルティボ時代からリーガエスパニョーラ屈指のサイドバックとして活躍していたあなたは、2010年夏に1350万ユーロともされる移籍金によってアトレティコ・マドリーに加わりました。アトレティコ入団時、このクラブにはどのような印象をお持ちでしたか?

「アトレティコはスペインの歴史においてビッグクラブとして扱われている。入団時にはヨーロッパリーグ初代王者となったばかりだったし、大きなプレッシャーを受けるクラブに加わったことは分かっていた。それでも成功をつかみ取る意欲を抱えていたよ。

 当時はこのクラブに長い間在籍し、キャプテンも務めていたアントニオ・ロペス(元スペイン代表DF、現在はマジョルカに所属)がポジション争いの相手であり、簡単な挑戦にならないことは理解していた。だけど、僕には成功をつかむ意欲があった」

――あなたはアトレティコでキケ・サンチェス・フローレス、、そしてディエゴ・シメオネと3人の監督から指導を受けました。どのような違いがありましたか?

「自分が加入したときに指揮を執っていたキケは、すでにチームの枠組みを固めており、その時期に最高と思われた選手たちを常に起用していた。マンサーノはキケよりも攻撃的なフットボールを実践しようとしたが、運に恵まれることなく多くの試合を落とし、彼が率いた日々は少ししか続かなかったね。

 そして“チョロ(シメオネの愛称)”は各試合で最適と考えられる選手たちを起用する。ライバルのことを考慮して、どの選手の起用が適切かを決めるんだ。うまく機能しているね」

「あの負傷で右足を失いかけた」。デポルティボ時代の深刻な怪我から復活

――デポルティボでプレーしていた2010年、あなたは右足首の脱臼及び骨折という深刻な怪我を負いました。約4カ月で復帰を果たしましたが、ピッチに立つ恐怖を引きずっていたと聞いています。

「あの負傷で僕は右足を失いかけた。足を切断する可能性があったし、2010年南アフリカW杯出場も断念せざるを得なかった。でも医師はプレーを続行できると話してくれたし、人々から与えてもらった勇気を必死に握りしめたんだ。

 とても厳しい時期だったが、自分を強くもしてくれたよ。あの負傷によって、僕は歩き方さえ変えなければならなかった。だけど、その経験が自分を新しい選手、新しい人間に生まれ変わらせたんだ」

――アトレティコ加入後も、その負傷の影響に悩まされたのでしょうか?

「以前のようなプレーができるようになるまで、それほど時間はかからないと思っていた。だけど走り方も変えなくてはならず、かなりの時間を費やすことになったね。それは心理面の問題でもあったんだ。アトレティコに到着したときには、監督(キケ)からの愛情も感じられず、自分が重要な存在とは思えなかった。

 最大限のプレーを見せようと試みたが、自分の知るすべてを示すための大胆さを欠いていたんだ。だけど試合をこなす度に、少しずつそれを示せるようになっていった。すべてを乗り越えたことに満足しているよ。デポル時代のような、最高の自分に戻れないと考えたことは一度もなかった」

――シメオネがアトレティコに到着した際、「15本のシュートを打ってノーゴールに終わるより、1本のシュートで勝利した方が良い」と発言して物議を醸しました。

「ただ僕のプレースタイルは何も変わっていない。監督は両サイドバックの積極的なオーバーラップを好んでいる。立ち向かう試合に依存する形で、フアンフランの方が積極的にオーバーラップすることもあるし、僕の方が攻撃参加の数が多かったりするね。だけど僕のスタイルに変化はなく、むしろ監督の敷くシステムの恩恵を受けている」

「戦術のメカニズムの共通理解が図られており、良いパフォーマンスを実現できている」

――アトレティコの攻撃は、あなたのオーバーラップを起点に展開されることが多いですね。

「左サイドにはアルダ・トゥランが位置しているし、コケも流動的だが、かなりの頻度で同サイドに寄ってくる。彼らはお互いを理解し合っており、僕も2人の創造的なプレーに絡めるよう試みている。

 アルダは凄まじいクオリティーを持つ選手であり、チームの攻撃は彼を中心に組み立てられるんだ。彼は世界最高の選手の一人であり、一緒にプレーできることは大きな喜びだね」

――堅守を大きな長所とするアトレティコですが、あなたが空ける後方のスペースには特に注意を払う必要がありますね。

「現在のチームは素晴らしい守備を見せている。僕がオーバーラップを仕掛けられるのは、アルダやほかのチームメートが、自分の空けたスペースを埋めてくれるという信頼があるからだ。このチームは戦術のメカニズムの共通理解がしっかりと図られており、それによって良いパフォーマンスを実現できている」

――アトレティコで、最も印象深かった試合を挙げていただけますか?

「(レアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・)ベルナベウを舞台にマドリーと戦った、昨季のコパ・デル・レイ決勝戦(延長戦の末、2-1で勝利)だね。僕たちにとっては最も美しい試合だった。彼らのホームで勝利をつかむことは、本当に困難だからね」

――あなたはフィゲレンセ時代に、レンタル移籍によってマドリーのカンテラに在籍した経験がありますね。アトレティコの永遠のライバルですが、少しでも愛着はあるのでしょうか?

「ほかのライバルと大差はないよ。僕がプレーしたのはレアル・マドリー・カスティージャ(Bチーム)であり、トップチームに在籍するのとは大きな違いがある。それに僕が在籍したのは、たった1年間だ。

 長い間在籍していた選手と比べて、特別な思い入れがあるわけじゃない。だけどスペインでプレーする扉を開けてくれたのはマドリーだし、もちろん感謝をしているよ」

シメオネのフィロソフィーを象徴する言葉“試合から試合へ”

――現在のあなたは、アトレティコのアイデンティティーを共有する一人とされています。このクラブのアイデンティティーをどのように解釈しているか、説明していただけますか?

「難しいね(笑)。アイデンティティーは感じるものであり、試合を戦っていくことで身に付けるものだ。僕から言えるのは、(アトレティコの本拠地ビセンテ・)カルデロンに行けば必ず恋に落ちるということだね。

 ファンは僕たちを後押ししてくれるし、アトレティコは苦しみながらもそれを乗り越える術を理解している、ほかとは一線を画すチームだ。多くの人々が、アトレティコを信仰の対象のように扱っているね」

――欧州有数の“歌うスタジアム”として知られるカルデロンですが、そのピッチに立つ心境はどういったものなのでしょうか?

「カルデロンでは観衆から大きな後押しを受けられ、自分が最高の選手だと感じられるんだ。ここでプレーできることに本当に満足している。自分の名前を呼んでくれる時こそ最高の瞬間だね。そうなるまでに時間はかかったけど、名前を叫ばれることで、試合に臨む意気込みはさらに強くなるんだ」

――シメオネのフィロソフィーを象徴する言葉“試合から試合へ”は、チーム全体に浸透しているように見えます。そのように進むことで、リーガ優勝の道も開けるのでしょうか?

「僕たちは“試合から試合へ”進むことをだけを考えている。現時点で最終節のことを考えても、どのような意味も持ち得ないからね。監督は前の試合が終了した直後から、次戦のことを話し始める。

 ただ、次の試合より先のことは断じて口にしない。“試合から試合へ”は素晴らしいフィロソフィーであり、現にチームは結果を手にしている。選手たちは次戦のことしか考えておらず、最後に何が起こるかは、そのときが訪れまで待たなければならない」

「リーガは退屈」「リーガは2チームだけのもの」

――シメオネは決勝などの大一番を前に、選手一人ひとりに特別なメッセージを伝えるそうですね。どういった内容か教えていただくことは可能ですか?

「監督は各選手の性格をしっかりと把握し、それぞれのモチベーションとなる言葉を伝えてくれる。それに加えて、僕たちが一体どのようなチームなのか、どういったプレーを見せるべきかなどをね。

 彼は自分たちがいかに重要な存在なのかを説き、僕たちはその言葉によって感情を高めていく。またロッカールームでは、選手たちのプレーや困難であった試合の映像が流され、苦しみながら到達した決勝までの道程を思い起こさせるんだ。僕たちの大舞台に立つ意欲を高めるためにね」

――あなたはシメオネと同様に「リーガは退屈」「リーガは2チームだけのもの」と、テレビ放映権料分配方法を理由とする二極化への不満を度々口にしています。選手側からそのような発言をすることには少し驚きを感じます。

「2強との間には格差が生まれているからね。イングランドやイタリアではスペインほどの差はなく、リーガでは権力を持つ2チームが力を増大させ、スモールチームはさらに小さくなっている。そのような意見を口にしたことを後悔してはいない。それは現実に起こっていることであり、もう少し平等に扱われる必要がある」

――では、母国ブラジルで開催される今年のW杯についてお聞きします。参加する意欲にあふれていると思いますが……。

「もちろん参加を望んでいる。ただコンフェデレーションズカップには参加したものの、シーズンを通して招集されているわけではない。でもW杯出場は僕の目標であり、常に頭の中にあることだ。自分だけに依存することではないが、ここで最大限のプレーを見せて目標の達成を目指すよ。

 ただ、ルイス・フィリペ・スコラーリが代表メンバーの選出で間違いを犯すことはないはずだ。マルセロやマックスウェルなど、僕以外にも素晴らしい左サイドバックがいるからね」

大の親日家。「スーパーマリオやドラゴンボールのTシャツもたくさん持っている」

――あなたは親日家でもありますね。

「日本が大好きなんだ。東京に行ってみたいと常々思っているんだけど、旅行をする機会にはまだ恵まれていない。日本では様々なことがうまく機能しているし、日本人は近しい人間への敬意を忘れない。

 日本のアイデンティティーは、アトレティコのものと同様に僕が共有できるものなんだ。スーパーマリオやドラゴンボールの絵柄がプリントされたTシャツもたくさん持っている。気に入っているよ(笑)」

――日本が好きになったきっかけは映画でしたね。お気に入りの映画監督は誰ですか?

「黒澤明だね。彼の映画はぜんぶ大好きで、特に『乱』が気に入っている。本当に多くの日本映画を見たけど、あの作品が一番だよ」

――『ツイッター』で、日本語を使って自己紹介をしたこともありましたね。

「『YouTube』で日本語のレッスン動画を見て、それでツイートするんだよ(笑)。元チームメートのディエゴ・フォルランは日本にいるし、彼のつぶやきをリツイートすることもあるね」

――いつの日か日本でプレーしたいと思いますか?

「もちろんだよ。ただ、今はとても難しい。アトレティコと長期契約(2017年まで)を結んでいるからね。でも日本でプレーしてみたいと心から思っているよ」

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