不振のビジャレアルとアトレティコ。あまりに対照的な監督交代の実情。

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 昨年末、ビジャレアルとアトレティコがそろって監督を替えた。

 ともにEL出場圏内で争うと予想されながら、12月を終えて順位は二桁。国王杯でも格下(前者は2部Bのミランデス、後者は2部Bのアルバセテ)に敗れたのだから、どちらのケースも仕方がなかった。

 ただ、両クラブの特徴を考えると、2つの監督交替劇はその重さと意味合いが異なる。

 ビジャレアルは1部に定着した2000-2001シーズン以降、一昨年のバルベルデを除いてシーズン半ばに指揮官を更迭したことはない。金は出しても口は出さないロイグ会長が一度選んだ監督をとことん信頼し、少々の苦境は我慢することを知っているからだ。人口5万人少々の小さな町を本拠とする小クラブが、わずか10年でスペインを代表する強豪のひとつになった理由のひとつである。

 ところが、そんなロイグ会長がいまのままでは立て直せないと判断したのだから、事態は相当深刻といえる。解任されたガリードは2年前のデビュー以来、監督として高い能力を示してきたが、遂に味噌をつけてしまった。

監督更迭は恒例行事!? 計画なきアトレティコの愚行。

 一方で、アトレティコの監督更迭は日常茶飯事。驚くには値しない。極端な例ではあるが、1992-1993、1993-1994シーズンにはそれぞれ1シーズンで6人もの監督を取っ替え引っ替えし、この24年間で延べ49人もの監督を使ってきたクラブだ。

 また、それゆえ不振の本当の責任者は監督でなく、25年前の1987年からクラブの実権を握り続けているヒル家(故ヘスス・ヒルとその息子で現取締役のヒル・マリン)と、彼らの傀儡であり続けているエンリケ・セレソ会長であることを多くの人が知っている。

 なにしろ、彼らはチームの安定などまったく考慮せず、好き勝手いじってはせっかく整えたバランスを崩していく。その酷さは2009-2010シーズンのELで優勝を勝ち取った14人のうち9人までを、ほんの1年半で放出してしまったことで十分わかるだろう。

 本気で上を目指しているとは到底思えない愚行。そのくせビジネスとして巧みにやっているわけでもなく、毎年無計画(としか思えない)に金を使うばかりなので、借金はかさむが力の積み重ねはなし。

 スペインのあるベテラン記者がうまいことを言っていた。

 毎年豪華な補強を行うアトレティコは、8月の時点ではチャンピオン。9月は優勝候補。10月はその可能性が低くなり、11月にはボロボロで、12月になるとゾンビ……。

 だから監督を替えても希望はなかなか持てない。

黄金時代を知るシメオネ新監督は救世主になれるか。

 今回マンサーノの後任に選ばれたシメオネは、近年のクラブ史の中で最も輝かしかったひととき、1995-1996シーズンの2冠獲得を経験しているOBであり、この特殊なクラブをよく知っている男だ。

 就任後最初の練習にファン4000人を集めた人気者で、監督としては母国アルゼンチンでエストゥディアンテス・デ・ラ・プラタを優勝に導いたことがある。選手に伝染する強烈な負けん気も持っている。さらにエースのファルカオとはリバープレート時代も一緒だったし、中盤でアグレッシブにボールを追い回すスタイルをチームに植えつけるノウハウも確立している。

 紛うことなき適任者であり、アトレティコの救世主になり得る監督だ。

 しかし、ヒル家とセレソが発する強い毒に抗っていけるかというと不安は残る。上層部にしてみれば、「チョロ」の愛称でファンに親しまれ支持されているシメオネの監督起用は、自分らへの非難を逸らす格好の盾。そこにヒビが入っても、力を合わせて修復するのではなく、これまでの49人と同様、ポイ捨てするだろう。楽観視は、やはりできない。

ビジャレアルは下部チーム監督のモリーナを抜擢。

 そんなアトレティコとは正反対のビジャレアルは、奇しくも2冠のアトレティコでシメオネのチームメイトだったモリーナを新監督とした。

 彼は2007年にレバンテで引退した後、2009年3部のビジャレアルCで監督を始め、昨季末2部のBチームを指揮するようになったばかり。それを考慮するとトップチームは時期尚早という気がしなくもないが、経験の多寡が問題にならないことはグアルディオラが証明しているし、前からどんどんプレッシャーをかけ、両サイドを広く使って攻撃的にいくモリーナのスタイルは、ビジャレアルの現チームにおそらく合う。

 ガリードの足を引っ張った故障者の数――戦力不足さえ知恵をもって克服すれば、「自分の会社では内部の昇格を信用し、信頼している。自分のビジネスを赤の他人に任せたりはしない」という企業家としての理念をクラブに持ち込んだロイグ会長の抜擢に応えられるだろう。

 置かれた状況は厳しく、監督としての実績はないがクラブのバックアップを当てにできるモリーナと、状況的にはマシで実績はあるもののクラブの中核に癌を抱えるシメオネ。最終的にどちらが良い結果を残すのか、ちょっと注目したい。

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