攻撃絶好調のアトレティコに影を落としかねないフラドの放出。

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 昨季ヨーロッパリーグ(EL)の初代王者となったアトレティコは、リーガ開幕前にはインテルとのUEFAスーパー杯にも勝利し、早くも今季初タイトルを獲得した。さらには8月30日、スポルティング・ヒホンとのリーガ開幕戦も4-0と完勝。9月1日にマドリード市内のネプチューン広場で行なわれたスーパー杯制覇を祝うセレモニーでは、今季の白星発進も手伝って、サポーターは高らかに「俺たちはスーパーチャンピオン!」と歌い続けた。

 先の2試合でアトレティコは確かに「スーパーチャンピオン」と言えるほどの凄まじい攻撃力を披露した。フォルラン、アグエロ、レジェス、シモン(またはフラド)の前線4人が完璧に機能した。

 この4人のいずれかにボールが回れば、ドリブルでマーカーを引き付け、そこに生まれたスペースを他の3人が突くことで一気に相手守備網を崩してしまう。4人が絶好調のアトレティコ攻撃陣は、中盤の組み立てを必要としないほど、驚異的な破壊力を有している。

 守備面でも、ビジャレアルから獲得したゴディンと入団7年目のペレアのCBコンビが存在感を発揮。中盤センターのパウロ・アスンソン、ラウール・ガルシアという2人の“潰し屋”の働きもあり、スーパー杯、開幕戦共に相手の攻撃をシャットアウトした。

 開幕早々から攻守に充実するアトレティコに対し、サポーターや地元メディアは「今季こそ」と、15季ぶりのリーグタイトル獲得に向けて、さらなる躍進を期待している。

破壊力は抜群だがワンパターンな攻撃には課題が残る。

しかし、アトレティコがこのまま好調を維持できるとはなかなか思い難い。

 なぜなら、リーガ9位で終えた昨季と同様に、攻撃の組み立てがあまりに一本調子すぎるのだ。「勢いに乗って一気呵成に攻める」という以外に、例えば遅攻から急激にペースを上げて相手DFを崩すといった攻撃の選択肢があまりにも少ない。

 ELのタイトル獲得、そして開幕戦の大勝により、他チームのアトレティコに対する警戒の度合いはますます高まるだろう。そうして守備を固めた相手に対し、カウンターやセットプレーで足元をすくわれてしまうのがアトレティコというクラブの悪癖でもある。新加入のゴディンは優れたCBではあるが、4バックの最終ラインの連携という点では課題を残しており、悪癖が解消されたとも思えない。

開幕戦勝利にも貢献したMFフラドを移籍期限間際に放出。

 アトレティコの今季を占う上で、さらに気がかりな点がある。それはMFフラドの放出だ。

 今年24歳のフラドは、同年代の選手の中では“希代のセンスの持ち主”として早くから知られていた。その才能に惚れ込んだレアル・マドリーは、10歳の彼をカディスから引き抜き手塩にかけて育てた。ジダン、フィーゴ、、ベッカムら“初代銀河系”に18歳で加わり、「ジダネス&パボネス(ジダンのようなスターとパボンのような生え抜き)」というスローガンにおける、象徴的な生え抜きとして期待されていた。

 だが、他のパボネスと同様にトップチームでポジションを勝ち取れなかったフラドは、’06-’07シーズンにアトレティコへ移籍。’08-’09シーズンにはレンタル先のマジョルカで活躍し、昨季アトレティコに復帰すると、貴重なアタッカーとしてチームの攻撃を支えた。昨季のEL決勝、フルアムの守備を崩せずにいたアトレティコに流れをもたらしたのは、フラドの投入だった。今季の開幕戦でも先制点を挙げ、2つのゴールをお膳立てした。

 今季の攻撃のキーマンとなりそうなフラドを、アトレティコは移籍期限ギリギリの8月31日、シャルケへと放出したのだ。移籍金1300万ユーロ(約14億円)、提示年俸も4倍増(!)と、アトレティコ、フラドの両者にとって魅力的なオファーであったことは間違いない。

フラドが抜けた穴を埋められる選手はいるのか?

 しかし、仮にフォルラン、アグエロ、シモン、レジェスの4人のうち誰かが戦線離脱した場合。または4人による攻撃が行き詰った場合。現在のアトレティコには、それらの状況を打開できる駒も策も見受けられない。フラド放出の穴埋めとなる戦力も獲得できなかった。

 攻撃で“違い”を生み出せるフラドがいなくなったことを、早くも嘆いている選手がいる。不動のエース、フォルランである。

「ドイツでの成功を祈る。だけど、正直に言うと、フラドと一緒にプレーし続けたかった」

 この先、アトレティコがフラド放出を悔やまなければいいのだが。

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