カップ戦で大躍進、リーグで絶不調。アトレティコ・マドリーの“摩訶不思議”。

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 今季のアトレティコ・マドリーの戦いぶりは、まさに“摩訶不思議”だ。

 国王杯では決勝進出、ヨーロッパリーグ(EL)でもベスト4入りを果たした。国内と欧州で2冠の可能性を残している“カップ戦線”では大成功とも言えるシーズンを過ごしている。

 しかし、リーガではさっぱり振るわない。

 スペイン対決となったEL準々決勝でバレンシアとの激闘を制した後、キケ・フローレス監督は「これでチームは長い間かかっていた病気から回復した」と語ったものの、その直後、最下位のヘレスにホームで1-2と敗北。さらに翌節、ビジャレアルにも競り負けて、ヘレス戦前のエスパニョール戦も含めてリーガ3連敗で10位と、泥沼に足を踏み込んでいる。

カップ戦もリーグ戦も同じメンバーなのに勝率が違う理由。

 監督のキケはこれまで、カップ戦もリーガもほぼ同じメンバーで臨んでおり、どちらかを優先するということはしなかった。カップ戦、リーガ共に、アグエロ、フォルラン、シモン、レジェスによる電光石火のカウンターが彼らの生命線となっている。バルセロナをも撃破した欧州屈指の“4本の矢”が猛威を振るい、決定的なチャンスを生み出してきた。

 一方の守備陣は、中盤を省略した攻撃を仕掛けることで生じる弊害に悩まされている。最終ライン、中盤、前線が連動してボールを運ぶことが少ないので、チーム全体が間延びする。シュートで攻撃を終えた場合はさほど問題は生じないが、前掛かりになった状態でボールを奪われたとき、カウンターを受けて自陣深くまで攻め込まれてしまう。ウイファルシ、ペレア、アントニオ・ロペスなど各国代表クラスのDFを擁していながら、33節を終えた時点で無失点試合はわずか6。組織的なディフェンスは全くと言っていいほど機能していない。

 この点から、長丁場のリーガでアトレティコが苦しんでいる理由が浮かび上がってくる。目の覚めるようなファインゴールを決めても、あまりに守備が脆いため勝ちきれない。当然勝ち点は伸びず、上位進出は難しくなっている。

“4本の矢”以外にもあるアトレティコの強さの秘密。

 一方、ガラタサライ(トルコ)、スポルティング・リスボン(ポルトガル)、バレンシアといった欧州の強豪を退けて勝ち上がってきたEL、決勝まで上り詰めた国王杯では、リーガとは違った傾向がうかがえる。

 それは、アトレティコのアウェーでの強さだ。

 アウェーゴールの“うまみ”を最大限に利用しているとも言える。それがより顕著なのは、EL決勝トーナメントの戦績だ。

【アトレティコの決勝トーナメント戦績】 (※左側がホーム)

●ベスト32 第1戦(2/18) アトレティコ 1-1 ガラタサライ
第2戦(2/25) ガラタサライ 1-2 アトレティコ

●ベスト16 第1戦(3/11) アトレティコ 0-0 スポルティング
第2戦(3/18) スポルティング 2-2 アトレティコ

●ベスト8  第1戦(4/1) バレンシア 2-2 アトレティコ
第2戦(4/8) アトレティコ 0-0 バレンシア

 この結果から見えるのは、ホームでのロースコアと、アウェーでのゴールの奪い合いだ。敵が攻勢に出てくるアウェーでは、アトレティコの攻撃力が最大限に引き出されている。

欧州の強豪国が軒並みホームで苦戦し敗北する。

 ベスト32のガラタサライ戦とベスト16のスポルティング戦は、共に第1戦がホームだった。ここで敵は守備を固め、彼らのホーム(すなわちアトレティコのアウェー)での第2戦で決着をつける目算で試合に臨んでいた。そのため、第1戦は手堅い展開となり、第2戦は“撃ち合い”となった。そうなれば、アトレティコは前述の4本の矢を駆使して、かなりの高確率でゴールを生み出すことができる。同様に失点も増えるが、アウェーゴールというルールがアトレティコに味方した。

 ベスト8では、バレンシアがホームでの第1戦で勝負を決めようと、積極的に攻撃を仕掛けたことで、アトレティコのカウンターが牙を剥いた。バレンシアのホームスタジアムであるメスタージャで2ゴールを奪い、1週間後の第2戦ではスコアレスドローで逃げ切りに成功したのだった。

リーガでの順位を早々に諦め、別の道を歩むアトレティコ。

 国王杯のファイナリストとなったアトレティコは、対戦相手であるセビージャが来季のチャンピオンズリーグ(CL)あるいはELの出場権を獲得する可能性が極めて高いため、来季もELに出場できると見られている(※注)。そのためアトレティコのサポーターは、10位というリーガでの苦戦をそれほど気にしなくなっている。

 リーガの終盤に3連敗を喫しEL圏内からも遠ざかったことで、キケはカップ戦重視の選手起用を示唆している。

「これからはEL準決勝のリバプール戦、国王杯決勝のセビージャ戦を最優先にしたスケジュールを組んでいく。タイトルにより近づくことが、今季残りの目標だ」

 カップ戦に照準を絞ったアトレティコは、リーガと国王杯を制し、サポーターが“栄光の二冠”と呼ぶ1995-96シーズン以来のタイトル獲得を実現できるのだろうか。

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