レアル・マドリー、バルセロナに次いでスペインで3番目に多くのサポーターを持つと言われるアトレティコ・マドリーのサポーターたちが、怒りの声を上げている。
2シーズン連続のチャンピオンズリーグ出場を果たし、今夏に複数のビッグクラブが獲得を狙ったアグエロとフォルランの2枚看板の残留にも成功。希望を持って新シーズンをスタートしていてもおかしくないはずのアトレティコだが、開幕から未勝利が続いた(9月17日時点)ことに加えて、7000人以上ものサポーターがホーム開幕戦前とチャンピオンズリーグ戦前にクラブ幹部を相手に抗議デモを行うなど、異様な状態となっている。
デモのきっかけはMARCA紙をはじめとするスポーツメディア。
アトレティコサポーターたちが、試合前にここまで大きな抗議デモを行う発端となったのは、MARCA紙やAS紙といった主要スポーツ紙によるアトレティコサポーターへの呼びかけだった。移籍期限ギリギリでエバートン移籍が決まったハイティンハ放出を、ヒル・マリンGMが各主要スポーツ紙ではなく、一般紙のある一紙にだけに提供。それをもってして「クラブの情報公開の不透明さ」を主張した各主要スポーツ紙がアトレティコの過激派サポーターグループにデモを行うことを促したという。紙面には、サポーターグループがデモの呼びかけをしているという形で試合当日の抗議デモの開始時間や集合場所が記されていたのだ。7000人以上ものサポーターがVIP入場口近くまで詰め寄る騒ぎとなったこのデモによって、後日ヒル・マリンGMは、一紙だけにハイティンハ移籍を漏らしたことを謝罪することとなった。
主要スポーツ紙の煽りによって一気に火がついたアトレティコサポーターの怒りの矛先は、ヒル・マリンGMだけではなく、セレソ会長にも向けられることになった。そもそもこの怒りの発端は、セレソ会長とヒル・マリンGMを中心に進められたビセンテ・カルデロン・スタジアムの売却計画にあった(2011年、新スタジアムへ移転予定)。スタジアムのメインスタンドの下を道路が通っているという珍しい構造に加え、スタジアムの横を流れるマンサナーレス川がクラブのあだ名ともなるほどにその土地のシンボルのように親しまれてきたビセンテ・カルデロンを売却しようとし始めた時から、セレソ会長とヒル・マリンGMには試合の度に抗議の合唱が歌われてきたのだ。
スター選手とホームスタジアムを売却。それでも莫大な負債が。
それに対して、セレソ会長とヒル・マリンGMは事あるごとに「フェルナンド・トーレスを売却するか、ビセンテ・カルデロンを売却するかしなければクラブがなくなる」、「ビセンテ・カルデロンを売れば負債は消え、最高のチーム強化ができる」と返答してきた。
だが、実際にはフェルナンド・トーレスとビセンテ・カルデロンという二つのシンボルを手放したにも関わらず、クラブの負債はまったく解消されなかったのだ。さらに新スタジアムの建築工事も一向に進んでいない状況が明らかになった。外観が作られただけで、本格的に工事が進んでいない新スタジアムは、今年10月に本格的に再着工とされてきた。しかし、つい先日ヒル・マリンGMは、再着工は来年1月以降と修正し、クラブが抱える負債はまだ1億6000万ユーロも残っていることを白状した。
ファンからの信用を失った経営陣は追放されるのか?
もはや、サポーターたちに対してなんら信頼を勝ち取ることができなくなっているセレソ会長とヒル・マリンGM。それどころか新スタジアムの建設工事を請け負うのはヒル・マリンGMが関係する会社で、ビセンテ・カルデロン売却と新スタジアム建設は彼の私腹を肥やすためではないかという噂まで囁かれ始めている。そして、現在の泥沼の状態を生むきっかけとなったのは、90年代にクラブの財政を顧みない経営を行った故ヘスス・ヒル(ヒル・マリンGMの父)であることから、「ヒル一家とその一味はアトレティコから立ち去れ」という言葉がアトレティコサポーターの合言葉となっている。
チャンピオンズリーグ戦前に行われた抗議デモで配られたビラにはヒル一家とセレソ会長の“罪状”が書き記されている。
1.14年間、無冠。
2.恩恵なきスタジアム売却。
3.クラブ最高権力の窃盗。
4.クラブの威厳の喪失。
5.45人の監督交代。
6.200人の選手入れ替え。
7.計5億ユーロの負債。
99-00シーズンに二部降格しても、翌シーズンには年間シートの購入が伸びるなど、アトレティコは多くの熱狂的なサポーターによって支えられてきた。そして今、アトレティコサポーターたちは、彼らが認めないクラブ幹部追放のために動き出した。果たしてこの動きがアトレティコを変える火種となるのか、それとも現クラブ幹部たちが生き残るのか。開幕早々、アトレティコはピッチ外でクラブの未来を左右する岐路に直面している。
コメント