アトレティコ・マドリーは負け犬?

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 レアル・マドリーが第ニの銀河系を形成しようとしている今、もう1つのマドリーのクラブ、アトレティコ・マドリーは“不運のチーム”という肩書きを捨てようとしている。ただ、この伝統はなかなか侮れないのだが。

 レアル・マドリーの影として生きていくのは簡単ではない。20世紀最高のクラブと比べられるのは宿命だ。しかし、アトレティコはそう悪いチームではない。9回も国内タイトルを獲得し、欧州カップ戦決勝でも数回戦っている。だが、アトレティコのイメージは不運のチームに変わりない。現在、スペインで最も有名な映画監督であるペドロ・アルモドバルは「わたしはそれほどフットボールを知らないが、アトレティコは好きだ」と言う。「わたしの映画と似ていて、苦しみと不幸に満ちているから」

 最も新しいタイトルを獲得したのは1996年までさかのぼる。監督はラドミル・アンティッチで、彼のチームはスペイン国王杯でも優勝している。ビッグネームはいなかったが、好選手をそろえていた。ペネフ、シメオネ、パンティッチ、カミネロといったところが中心選手だった。だが、それ以後は何も起きなかった。現在、隣のクラブに銀河系第二世代が作られているのを“マットレス”のチームはただ眺めているだけだ(スペインでは、かつてマットレスは赤白模様だったことからアトレティコのニックネームになった)。

 不運の歴史を語るとき、まず出てくるのは1974年チャンピオンズカップ(現在のチャンピオンズリーグ)決勝である。残り数秒までアトレティコは1-0でバイエルン・ミュンヘンに勝っていた。ところが、ゲオルク・シュバルツェンベックに40メートルの同点弾を食らってしまう。ペペ・レイナ(リバプール)の父親であるミゲル・レイナが当時のGKだった。彼は「ロッカールームでわれわれは泣いていた。あの時、すべてダメになった気がしていた」と振り返る。バイエルンは再試合で4-0と圧勝し、その後の欧州3連覇につながった。

 12年後、アトレティコはカップウィナーズカップ(欧州各国のカップ戦優勝チームが出場する大会。1999年にUEFAカップと統合)決勝へ進出。対戦相手のディナモ・キエフは輝かしいチームであり0-3で敗戦。ルイス・アラゴネス監督率いるアトレティコは太刀打ちできなかった。

 その翌年、ヘスス・ヒル会長の時代がスタートした。彼はクラブ史上で最も柄が悪い会長と言っていいだろう。メディアをくず扱いし、ミッシェル・ボートロー主審を「ホモ」と呼び、監督は年に20回も首にして問題ないとうそぶいた。1987~2003年の間に25人以上の監督を首にしているから、当たらずとも遠からずだ。アーセナルが約100年間に雇った監督の数と大して変わらない。

 ヒルが最初に行った改革はユースアカデミーの閉鎖だった。「金がかかりすぎる」のが理由だったが、そのために多くの才能を無駄にしてしまった。ラウルはこのためにレアル・マドリーへ移籍したのだ。彼はその後しばらく、家族と同様に隠れアトレティコファンだったというのに。

 リクルートの面でも芳しくなかった。大金を投じて獲得した選手は期待外れ、本物のスターも止めておくことができない。才能溢れるフェルナンド・トーレスもリバプールへ出ていってしまった。さらに悪いことに、トーレスは「輝きたければ、ふさわしいクラブに移籍した方がいい」とアグエロにアドバイスしている。「次のステップに移るには、リバプールに移籍するしかなかった」と。

 ルイス・ガルシアも面白いことを言っている。「ある種の人々は苦労を好む。もちろん、そうでない人もいる。苦しみを好む人はアトレティコを支持し、そうでない人はレアル・マドリーやバルセロナを応援する」。歴史的に労働者のチームだったアトレティコのニックネームの1つはラス・プーパス(=アンラッキーズ)である。

 負け犬のアトレティコというイメージは、自虐ネタとしても使われている。クラブはスペインで最も優秀な広告会社にチームのコマーシャルを製作させていて、有名なのは次のストーリーだ。

 アトレティコファンの父親が、ラジオで散々悪いニュースを耳にした後、息子にどうしてアトレティコのファンなのか聞かれて説明できないというもの。これはシリーズ化していて、父親の墓の前で息子がこう話す。「お父さん、アトレティコのサポーターを続けるのはつらすぎるので、やめさせてもらうよ」。すると、父の意志を象徴するかのように木の枝が激しく動いて息子に当たる……。しかし、この負け犬根性が、思わぬ結果をもたらした。成功したのだ。ファンは増え続けたのだ。

 アグエロとフォルランのコンビが活躍した2008-2009シーズンは、チャンピオンズリーグでグループリーグを突破した。そして、古いビセンテ・カルデロンは取り壊され、7万3000人収容の近代的なスタジアムが新設される。エンリケ・セレソ会長は“負け犬根性”からの決別を宣言している。「確かに、負けて人気が上がったかもしれないが、それは卒業したい。これからも勝ったり負けたりするだろうが、それを不運のせいにはしたくないのだ」。確かに、これこそ必要な態度だろう。カカやクリスティアーノ・ロナウドが移籍したレアル・マドリーと比較されるのは間違いないのだから。

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