今季のアトレティコは評価しづらいチームだ。
結果だけを見るなら、そこそこ強い。リーガでは10月の終わりに一度10位まで落ちているが、そこからクリスマス休暇まで9試合負けなしを続け、バルサ、セビージャに続く3位で年を越した。
さらにチャンピオンズリーグでもリバプールとの2試合を引き分け、マルセイユとも敵地で引き分け、PSVはホームで破った。2部Bリーグに属するオリウエラと対戦した国王杯も合わせると全部で15戦無敗である。
ところが、試合の内容はそこまで素晴らしくもなかった。最終的に2点差、3点差を付けて勝った試合でも、主導権は相手に握られっぱなしだったことが何度かあった。勝って然るべき最下位クラスのチームを相手に、五分の戦いを繰り広げたこともあった。チャンピオンズリーグに集中する余り、その前後の試合はたいていパフォーマンスを落としていた。
年が明けてからは最悪だ。負けなしの日々はどこへやら、2月の1週目までの7試合は5敗2引き分けの白星ゼロ。順位を7位まで落とした挙げ句、ハビエル・アギーレ監督は解任されてしまった。
キャプテンのマキシ・ロドリゲスは言う。
「安定感に欠けているんだ。たとえば、強豪とされているチーム相手にとても良い戦いをしたかと思えば、次の試合で比較的弱いチームにやられてしまうといった風に。1年を通じて同じペースで行かなきゃならないのに」
不安定は長年アトレティコが患う持病。今シーズンは一試合の中でさえ顔を出している。
「最初にゴールを決めると、その後リズムがガクッと落ちてしまう。次はそうならないようにと思ってやっているのに、ほぼ毎回同じことになる。90分間集中し続けたら、もっと良いゲームができるはずだが……」
さらに、これは好みの問題だが、アギーレ時代はサッカーそのもののエンターテインメント度が低かった。中盤にクリエイティブな選手がいないので意外性のあるプレイは少なく、巧みな展開といったものには無縁。アトレティコに強いスポーツ紙の番記者によると、ファン10人のうち8人は文句を言っていたそうだ。「やっているサッカーがちっとも良くない」と。アギーレ監督の首がすっぱり飛んだのは、この点も少なからず関係している。
しかし、ボールがその退屈な中盤を一旦通り過ぎたら、その後は楽しめる。前にはセルヒオ・アグエロとディエゴ・フォルランのツートップ。左にはシモン・サブロサ、右にはマキシという優れたアタッカーが控えているからだ。
この4人にサブのフローレン・シナマ・ポンゴルを加えたアタックラインは、今季のアトレティコ一番の強み。今季はバルサのスリートップがずば抜けているのであまり目立たないが、アトレティコの5人もリーガ22試合で39得点と、申し分ないペースでゴールを重ねている。別格のバルサを除くと、アトレティコはリーガ最多得点チーム。その総ゴール47の約83%を5人で決めているのだから悪くない。
「このチームは皆が得点する。本当はフォワードであるフォルランとアグエロの仕事だけれど、シモンや俺にも攻める力はあるから、時々2人を役目から解放してやるんだ」とマキシ。
ただ、そうはいっても一番当たりがあるのはやはり最前線の2人、中でもフォルランだ。序盤の1カ月近くをケガで休んだため、リーガでは17試合にしか出ていないが、すでに14得点している。アグエロほどのスター性はないが、決定力では決して引けを取らない。若きエースがコンディション問題を抱える今季、フォルランの存在はチームにとって心強い。
彼はまた中盤と前線の繋ぎ役としても活躍している。1.5列目にはこれまでマニシェやラウール・ガルシア、エベル・バネガといった選手が試されてきたが、波があったり、気の利いたパスが出せなかったりで、どうにも頼りない。そこで運動量豊富、プレイに幅があるフォルランが下がってボールをもらい、前に繋ぐのだ。
周りを活かす能力に長けたフォルランとアグエロのコンビネーションは、昨年の時点で珠玉に磨き上げられている。だから、ここから始まるアタックは面白い。2人でそのままゴールを狙いに行くこともあれば、サイドのマキシとシモンも仲間に入れて、パスを廻すこともある。ボールはワンタッチ、ツータッチで軽快に繋がれ、最後は鮮やかにゴールネットを揺らす。昨シーズンと同じ顔ぶれ、同じフォーメーションならではの滑らかな連係である。
「フォルランやアグエロとは完璧に通じ合っている。ボールをもらって次にパスを出すとき、2人がどのスペースにいるか、いちいち見なくてもわかるんだ」とシモンは言う。
そのシモンの役割は、最終的にはもちろん得点とアシストだが、組織的な攻撃という観点からいうと崩しだ。縦に突破と見せかけて、中に切れ込んでいくようなドリブルは効く。ディフェンダーを引きつけたところで、ちょこんとパスを出せばアグエロやフォルランが合わせる。前が開いたら、得意の右足でゴールを狙えばいい。カウンターの際、センターバックのトマス・ウイファルシやヨン・ヘイティンガから長いパスをもらってタメを作るのもシモンの大事な仕事だ。
同様に、マキシは右サイドからチャンスを作るが、彼の場合は得点のセンスを活かすプレイが良い。ツートップの裏をカバーするように動き、絶妙なタイミングでさっと飛び出して決めるのが実に巧い。ポジショニングに優れているので、味方からの絶好のパスばかりか、セカンドボールまでもが転がってくる。さらに、シモンともども中距離のシュートもある。ドイツワールドカップのベストゴールは、ペナルティエリアの外からマキシがボレーで決めた一発だ。
「自分らの攻撃力を、俺たちは自覚してる。何度かチャンスを作る中で、ゴールはきっと決められると信じている。だから、試合に勝つためには、守備陣の協力が必須なんだ」
こう語るマキシによると、今季のアトレティコのベースコンセプトは「失点をゼロにして、チャンスで決める」。ところが、これまでの公式戦32試合でゼロ封はわずかに9度しかない(うち2度は2部Bの相手と対戦した国王杯)。総失点自体はそれほど多いわけでもないが、どうにも締まりがない。
「ヨーロッパ最高の1つに数えられる」とキャプテンが自負する攻撃陣を持つアトレティコはこの先どこまでいけるのか。カギを握るのはディフェンスになりそうだ。新任アベル・レシーノ監督のお手並み拝見である。
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