「アグエロは嘘をついている」、記者会見の席でキッパリ言い切ったのは、ビジャレアルのペジェグリーニ監督だ。先週日曜のアトレティコ・マドリー戦は、前半31分にDFファビアーノ・エレルに決められて失点、そのまま0‐1で終了した。とはいえ、ビジャレアル関係者がカンカンになっていたのは、何もゲームに負けたせいばかりではない。問題はそのゴールの決まり方だった。実は直前のセットプレー中に足を痛めたFWギジェ・フランコが、GKビエラの前で突っ伏していたにも関わらず、アトレティコ・マドリーの選手たちは知らん顔でプレーを続行、フィニッシュまで持って行ったというものだったからだ。
何せゲーム中に倒れている選手を見かけたら、それが敵でも一応ボールをピッチ外に蹴ってプレーを止めるというのが、現代サッカーの世界的な慣習となっている。近頃は、軽い接触プレーでも地面に倒れ込んで、時間稼ぎや敵の攻撃を切ろうとする“演劇”行為も問題となっているだけに、一概に良いとも言えないが、やはりケガ人を無視されたチームがいきり立つのは当然。いわんや、それで失点すれば怒りも倍増というものだろう。
ちなみにそのプレーの経緯は、クリアボールを拾ったアグエロが右サイドからクロスを上げて、それをペナルティエリア内でパブロが頭で繋ぎ、エレルがヘッドで決めたというもの。試合後アトレティコ・マドリーの選手たちは、「フランコが倒れているのは見なかった」と口を揃え、知りながらボールを外に出さなかったのではないと主張。ハビエル・アギーレ監督も「自分のところの選手を信じない訳にはいかない」と、彼らを庇っていた。そうは言ってもペジェグリーニ監督の「アグエロはウチのベンチ近くまで来て、顔を上げてゴールの方を見た。それで気がつかないはずがない」という指摘も、確かにもっともなのだが…。
しかもその少し前のプレーでは、起き上がらないパブロを見て、ビジャレアルが攻めていたのにFWフォルランがボールを外に蹴り出すという、スポーツマン的な対応をしていただけに、その差は歴然。おかげでビジャレアルにとって、アグエロはすっかり悪役として定着してしまった。
しかも彼には前科もある。そう、それはパンチで決めた昨年10月のレクレアティーボ戦での勝ち越しゴール。TVにはっきりと映っていたため言い逃れの余地もなく、本人も「ボールをヘッドしようとして、そのまま突っ込むとポールに頭が当たりそうだったんだ。それで、思わず手が出てしまった」と、あくまで突発的な反応だったことを強調したものだった。その時はそうかと納得したものの、ただそれも今になって考えてみると、ぶつかるのを避けようとして手を出したら、普通はグーではなくパーになるような気もしないでもないが。
そんな白々しい言い訳が祟ったのか、今回もビジャレアルのDFホセ・エンリケは、アグエロを「ピッチでやったことよりも、後でそれを否定する方が、ずっと恥知らずな態度」と非難。とはいえ逆に、ゴールを入れるのが仕事のFW選手たちは、少々違う意見を持っているようだ。例えばフォルランなど、「もし自分がエレルと同じ場面に遭遇したら、やっぱりゴールを狙っていただろう」と言っていたし、後日この話を聞いたセビリアのチェバントンからは、「トリッキーな行為もサッカーの面白さのひとつ。自分も時々ピッチでウソをつくことがある」という、半ば冗談のようなコメントも。
さらに、「アグエロはフランコを見てないって言っていたよ」と太鼓判を押していたチームメイトのフェルナンド・トーレスも、「気付いてたらシュートしなかったかって?いや、それはありえない」と、まったくドライなもの。まあそんな彼も、昨年のR・マドリー戦では、ドリブルしながら競っていたセルヒオ・ラモスの腕が顔に当たった時、少々誇張して転倒。そのせいで相手に2枚目のイエローカードが出て退場となってしまったため、試合後、カペッロ監督から「トランポーソ(イカサマ野郎)」などと呼ばれていたものだ。
もっとも今季バレンシアで売り出し中の左サイドハーフ・シルバのように、2部のエイバルにレンタル移籍中の2年前、GKと1対1になりながら倒れている敵の選手を見て「とてもシュートする気にはなれなかった」とボールを外に蹴り出し、後にそのフェアプレーが表彰されたなんて選手もいない訳ではない。どちらにしろ、“フェアプレー精神”の解釈は人それぞれ。元はといえば審判がゲームを止めなかったのが悪いとも言えるだけに、今回はアトレティコ・マドリーもワリを喰ってしまったようだ。何よりフランコのケガが、命に係わるようなものでなかったのは幸いである。
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