2006年最初の悲劇、集団胃腸炎の顛末

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前代未聞!集団急性胃腸炎で試合が急遽延期に

「レアル・マドリーなんて3年もここにいたのに、ウチはたったの3日でこれだ」。

それは、1月4日水曜日のお昼のこと。ウンザリした顔で帰りのバスに乗り込むアトレティコ・マドリーのスタッフからは、そんな呟きが洩れてきた。すでに夜に予定されていた国王杯16強対決初戦もサスペンション(延期)が決定。次々と車内に姿を消す赤いジャージ姿の選手たちも、一様に疲れた表情を浮かべている。

それも当然だろう。何故なら14人もの選手が一晩中腹痛と下痢、嘔吐などに悩まされ、ゆっくり眠っている暇もなかったのだから。難を逃れた選手たちも、せっかく張り切って準備していた年明け1戦目がこんな形で中止とあっては、元気がないのも無理はない。

昨年の不成績を巻き返すつもりで、元旦からチームは、マドリー近郊のラス・ロサスにあるスペイン・サッカー協会の施設で合宿入り。どこよりも早い仕事始めで、まずは国王杯サラゴサ戦に挑む予定だったが、集団急性胃腸炎で選手たちがダウンしてしまうなんて、一体誰に想像できただろう。アトレティコ・マドリー、2006年最初の悲劇だ。

始まりは火曜の夕食だった。食べ終わる前から気分が悪くなって、部屋へ引き揚げる選手がチラホラ。そして時間が進むにつれて、発病者はどんどん増えていく。メニューはライス、焼いたスズキ、ツナ入りサラダ、フレッシュチーズなど。あたるような食べ物だったとも思えないが、最初はみんな食中毒を疑っていた。

実はこの協会施設は、レアル・マドリーが昨年11月に新練習場をオープンするまでずっと使っていたもの。彼らが時々敷地内にある宿泊所で食事をしていたこともあるし、スペイン代表チームも何度となく合宿、他にも監督ライセンス取得クラスや、審判団の研修会などで幅広く利用されていた。ただこれまで不祥事すらなかったものの、料理の質に関して選手たちの評判はあまり良くなかったという。大体、すぐさま食材の管理状態を問われた施設の責任者からして「もしツナ缶が痛んでいたなら、もうそのメーカーの物は使わないことにする」なんて、とぼけたことを言うのだから頼りない。

とはいえ翌水曜の午後になって症状の現れる選手やスタッフもいたせいで、だんだん食中毒疑惑は下火に。代わって有力になってきたのは、ウイルスによる急性胃腸炎という説。木曜に記者会見したMFガビの「みんな違うものを食べていたし、食事しなかったスタッフにも症状が出ていた」という証言も、その可能性を一層高めることになった。ただもしそうだとしても、そんな人騒がせなウイルスが蔓延する宿泊所というのも問題な気がするが。

ちなみに最初にダウンしたのは主にスペイン人のカンテラーノたち(Bチーム出身選手)。それに半日以上経ってからフェルナンド・トーレス、パブロ、ペレア、マキシなどが加わって、とうとう患者数は19名にまで増加した。その中でも一番気の毒だったのは、GKレオ・フランコ。事件の当日いきなり父親事故死の知らせが届いただけでもショックなのに、帰国するために飛び乗ったアルゼンチン行きの飛行機の機内で発病。長いフライトの間ずっと苦しんでいたというから、もうどうやって慰めていいのかもわからない。

結局最後まで症状が出なかったのは、選手ではイバガサ、、ケズマン、、ガジェッティ、控えGKのクエージャル。とはいえ最後の2人はまだ怪我が治っていないので、もともと試合に出られるコンディションにない。ただ問題の夜、選手たちと一緒に食卓を囲んでいたセレソ会長、ヒル・マリン筆頭株主、ビアンチ監督などが無事だったのは何とも皮肉。試合のことを考えたら、逆だった方が実はありがたかったかもしれない。

それでもさすが普段鍛えているスポーツマンは身体の構造が違うのだろうか。私の知り合いがこのウイルス性急性胃腸炎にかかった時は、3~4日症状が収まらなかったのに、翌日には選手の大半が練習に参加していたからビックリだ。もっともマキシ、ブラウリオは家から出られず欠勤、、サイーノス、ガビらを含む6人はグラウンドを30分ゆっくり歩いていただけと、かなり個人によって回復度には差があったとのこと。おまけに練習中、みんなが代わる代わる栄養補給のアンプルを飲んでいる風景なんて、そうそうお目にかかれるものじゃない。

これもガビによると「たった1日で3キロ減った」そうで、日曜のバレンシア戦までには「まず体重を戻すこと」が先決だとか。もっとも発病した選手たちはまだお粥、鶏のささみといった消化の良い物しか食べられず、急いで体力を回復するのにも何とも頼りないメニューではあるのだが…。

そういえば国王杯の対戦相手だったサラゴサは、試合当日の午前中マハダオンダにあるアトレティコ・マドリーの練習場で、セッション中にこの事件を知ったとか。試合延期を快く承諾したものの、次にマドリーに来る時はアトレティコ・マドリーが旅費を持ってくれることを期待しているという。とどのつまり、合宿なんかしないでおとなしくいつもの場所で練習していれば、ただでさえ詰っている試合日程を変えることも余計な出費もしなくて済んだ?そんな風に思っているアトレティコ・マドリー関係者がいるかどうかは知らない。

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