ダービーだけは仕方ない

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「もう30分以上同じことしてない?」「そろそろ駐車場の方に回ってみようか」

いい加減、ファンの女の子たちがそんな気分になるのもわかる。何せあこがれの選手を見に、わざわざマハダオンダ(マドリー近郊)まで出向いてみたものの、延々とシュート練習ばかりやっているのだから。

それは水曜日のアトレティコ・マドリーの練習風景。先週末のマドリー・ダービーでは、今年もまた宿敵レアル・マドリードに負けてしまったものの、その日グラウンドを囲む金網の外から見守るギャラリーはかなり盛況だった。別にファンも中の選手たちに向かって文句を言う訳でもなく、選手たちの雰囲気もダービー前の6連勝中だった頃と同じに明るいまま。もちろん、それはそれで喜ばしいことではあるのだが…。

確かにペペ・ムルシア監督が、シュート練習に随分時間を割いているのは紛れもない事実。低空飛行が続いたビアンチ監督時代には1試合で平均1得点。それでも監督は決定力不足をマスコミから批判される度に、「そりゃあ選手たちに毎日千本ずつシュートを撃たせることはできるが、フィニッシュの時に冷静さを保つことは教えられない」と開き直っていたものだった。おまけに、シュート練習にそれ程熱心だったという記憶もない。ところが新監督になって練習方法が変わると1試合2点取れるようになったのだから、やっぱり苦手科目をたくさん練習するというのも、効果がない訳ではないらしい。

その日、抜群のシュート精度を見せていたのはエースのフェルナンド・トーレス。ドリブルから、クロスから、エリア外からと何本もゴールを決める様子は、見ているだけで気持ちがいい。もっとも中には「そのうち1本でもダービーで決まっていたら」と、少々恨みがましく思ってしまったファンもいたかもしれないが。とはいえ、アトレティコ・マドリーを何度も率いた経験があるルイス・アラゴネス・スペイン代表監督の「何でもフェルナンド頼みではなく、チーム全員でレアル・マドリードに勝たなければいけない」という言葉にも一理ある。

その時、横で見ていた年季の入ったサポーターのオジサンたちの会話がふと耳に。「勝ち越しゴールを入れられた途端ガックリ肩を落とすようじゃ、チームリーダーとしてはまだまだ。彼にはもっと要求していいはずだ」なんて言っているから、思わず私は「でもまだ21才なんだから、仕方ないのでは?」とフェルナンド・トーレスを弁護することに。すると「何言っているんだ。もうリーガ1部で4年も揉まれているんだし、キャプテンがあんなじゃ困る。大体、他の選手と給料からして全然違う」と、反論が返ってくることに。

だからといって、彼らがダービー敗戦の責任をフェルナンド・トーレスだけに押し付けている訳ではない。「いつものことさ」オジサンの1人はそう言って肩をすくめた。

「レアル・マドリーを前にすると、何だかみんな縮こまっちまうんだ。せめてあの時、ケズマンが決めていればなぁ」。GKカシージャスと1対1になって、目の前でシュートとしたボールが虚空に飛んで行ってしまったあれか。ケズマン本人もその大チョンボは、「これまであんなチャンスに失敗したことはなかったのに」と、大いに悔しがっていたものだ。

それにしてもサポーターですら永遠のライバルに負けて悔しがるより、半ば諦めているみたいなのはちょっと寂しくはないか? そこで「じゃあ来年も勝てないの?」と尋ねてみると、「いや勝っては貰いたいんだが…」と何だかはっきりしない答え。まあ、CBパブロのように、「レアル・マドリーのホームで負けるのは、とっても普通のこと」なんて妙に達観している選手も多いのだから、何をか言わんかやではあるがが…。

その間も練習は続いている。ムルシア監督の「いいぞ、マリオ!」という大声に再びグラウンドに目を移すと、その日は見慣れない顔が結構多いことに気がついた。どうやら彼らはアトレティコ・マドリーB(2軍)の選手たち。景気づけのためか、隣のグラウンドからAチームのセッションに呼んできたらしい。つい2ヵ月前までは自分の教え子だっただけに、監督も気安く声がかけられるようだ。アピールする気満々の若い選手たちが混ざると、やはりただのミニゲームでも真剣さが違う。

「あの監督になって一番良かったのは、選手たちに一体感が生まれたことだな」オジサンのそんな意見には、私も大きく頷いてしまった。いい例は、ゴールが入る度にピッチの選手だけでなく、ベンチまで総出で抱き合って喜んでいる、試合でお馴染みのシーンだろう。そんな光景は、先日レアル・マドリーがマジョルカに負けた試合で、「チームメイトが自分の先制ゴールを一緒になって喜んでくれなかった」と嘆いたセルヒオ・ラモスも、「アトレティコやバルサなら、もっとみんなでゴールを祝うのに」と羨んでいたほど。

まあ何にしても、マドリー・ダービーは年に2回だけ。それがようやく済んだのだから、彼らももう心置きなく目標の来季のヨーロッパ大会出場圏内入り(6位以上、現在アトレティコ・マドリーは9位)を目指すことができるはず。オジサンたちも「チャンピオンズリーグ(4位以上)は難しくても、UEFA杯なら絶対行ける」と、かなり強気だ。そのために大事なのは、次のラシン・サンタンデール、ビジャレアル、セビーリャとの3試合に勝って弾みをつけることだとか。確かに今のアトレティコ・マドリーであれば、レアル・マドリー以外なら簡単には負けない気もしないではない。

望むらくは、あともう少しムルシア監督が守備の練習にも力を入れてくれると、セットプレーの時などにあんまりドキドキしないで見られるようになると思うのだが…。

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