最大の武器が沈黙したアトレティコ

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4日、レアル・マドリーのホームで行われた“マドリーダービー”。2-1で勝利を収めたのはレアルだったが、アウエーに乗り込んだアトレティコも果敢なプレーを見せて、試合は手に汗握る白熱した戦いとなった。

 試合開始早々の4分、カッサーノが左からのセンタリングに合わせてレアルが先制点を奪う。しかし、好調アトレティコもすぐさま反撃に出る。最前線からトーレスとケズマンが激しいプレッシングを行うと、中盤のガビ、リュクサン、ペトロフ、ガジェッティらが限定されたパスコースに狙いを定める。ペレア、パブロ、、ベラスコの4バックは中盤と連係してさらにレアルに対して厳しい守備を行い、アトレティコはボールを持って攻め上がる場面を作り始める。
 そして前半26分、右CKを得たアトレティコは、リュクサンがこぼれ球をシュートし、そのボールに反応したケズマンがヒールキックでコースを変えるという見事なプレーで同点に追いつく。

 試合は振り出しに戻り、ボールを持ち始めていたアトレティコの意気はより一層高まる。中盤でのプレスもさえわたり、アトレティコはアウエーでダービー戦を戦うチームとは思えないほど生き生きとしたプレーを連発する。
 だが、これ以上ないというほど機能しているアトレティコの中にあって、チーム最大の武器とも言える左サイドのペトロフは沈黙したままだった。

 首位を走るバルセロナに対して2勝0敗の戦績を残しているアトレティコは、ペトロフの圧倒的な突破力でバルセロナの右サイドを崩壊させてゴールを奪い勝利した。リーガ最強のバルセロナを撃沈したその突破力は、これまでのアトレティコ6連勝の原動力でもあった。だが“マドリーダービー”でのペトロフには、その圧倒的な突破力を発揮するチャンスは訪れなかった。

 チームが連動してボールを奪うアトレティコ。敵陣で見せるそのプレーは本来ならばゴールに直結するようなチャンスを生み出すはずだった。だが、敵陣でボールを奪ったアトレティコには、身体能力を発揮して相手守備陣を崩壊させる広いスペースは残されていなかった。ガビとリュクサンのセンターハーフと、豊富な運動量でボールを受けてははたいてリズムを作り出すケズマンによって、アトレティコは敵陣でボールをつないでいく。高い技術でレアル守備陣の間をすり抜けるようにして続くアトレティコのパスワーク。しかし、こういったプレーからアトレティコはゴールを生むことができない。細かいパスワークでの攻撃は、アトレティコの得点パターンである自陣でボールを奪って相手守備陣の裏のスペースをトーレス、ペトロフ、ケズマンらのスピードで陥れるというプレーとは違ったものだった。ボールを持ってゴールに近づくものの、相手を完全に崩壊させるような攻撃を繰り出すことができず、シュートのほとんどがDFに当たってしまう。

 すると前半40分、レアルがアトレティコの攻撃を阻み、そこからカウンターが始まる。ジダンからベッカムへと極上のスルーパスが通り、トップスピードに乗ったままベッカムはクロスを入れる。スピード溢れるカウンター攻撃に取り残されまいと怒とうのダッシュでゴール前にカッサーノとバプティスタが転がり込んでくる。2人は互いにもつれ合うようにしてベッカムのクロスに飛び込み、一瞬早くボールに触れたカッサーノがヒールキックでボールをアトレティコのゴールに押し込んだ。

 ボールを持って相手ゴールへと近づくものの、ゴールを奪えなかったアトレティコは、彼らの最大の武器であるカウンター攻撃のお株を奪われるようにしてレアルに決勝点を奪われてしまった。

 だが、その後もアトレティコは果敢なプレーで、勝利を目指し続けた。ボールを奪っては丁寧にボールをつなぎ、レアルゴール前まで何度も攻め上がった。しかし、細かいパスワークでの攻撃の中では、やはり試合を決めるようなペトロフの突破は見られず、アトレティコはその後ゴールを奪うことができずに試合終了の笛を聞くこととなった。

 チームが機能するからこそできる高い位置でのボール奪取。だが、そこから相手ゴールを陥れるための狭いスペースで相手を崩していくパスワークをアトレティコは持っていなかった。6連勝によってアトレティコはチーム内に信頼感が芽生え、迷いのない守備を行ってボールを保持するようになった。だが彼らはまだ、流れの中から敵を崩すパスワークを持っていない。相手が攻め上がってくるのならば、これまでのアトレティコの電光石火のカウンターは火を噴き続けるが、アトレティコのカウンターを警戒して相手が引いた状態では、ゴールを奪うことが難しい。今後、アトレティコはこの課題を克服するために試行錯誤することになるだろう。そして、これまでアトレティコの攻撃の核だったペトロフにも、さらなるプレーの幅を手にすることが求められる。

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