「今日は沢山入ってる!」
久々にスタンドに空席が少ないビセンテ・カルデロン・スタジアムを見たのは、先週の日曜のこと。というのも、今季前半はアトレティコ・マドリーの成績不振がモロに客足に影響、特に昨年10月末から約3ヵ月間白星のなかった時には半分位しか埋まっていなかった試合もざらだったから。それが23節のレアル・ソシエダ戦では、いきなり満員近くまで客足が増加、これは一体…。
やはりその理由は、1月半ばにビアンチ監督がペペ・ムルシア監督に代わってチームの調子が上向きになったことに尽きるだろう。ただしその前のデポルティーボ戦では、まだファンたちも懐疑的、観客数にそれ程大きな変化はなかった。そこで決め手となったのは、2週間前にカンプ・ノウでバルセロナを1‐3と余裕で破ったこと。あれだけ気持ちのいいカウンター攻撃を何度も見せられては、誰もが「これは是非とも生で見たい」と思っても無理はない。
ただしその日の試合は、バルセロナ戦でのような派手さは一切なし。むしろちょっと前の「パスが3回と繋がらないアトレティコ・マドリー」を彷彿させるような展開に、「せっかく駆けつけたサポーターたちがまたガッカリしたらどうしよう」と、こちらの方が心配になったくらい。ところがそこで意地を見せてくれたのはFWケズマン。その日の彼は、前の試合の好調ぶりが評価されたガジェッティに先発の座を奪われたばかりだっただけに、正にグッドタイミングで監督にアピールできたことになる。
今シーズン、その得点能力を買われてチェルシーから移籍してきたケズマンも、ここまでのゴール数がたったの6と思ったように数字が伸びず。前節でチームが上手く機能したことを考えると、控えに回されても文句は言えなかった。もっとも前日練習での彼は明らかに不満そうな表情。おまけに筋肉疲労などというどこか曖昧な理由で途中早退してしまったものだから、「怒って試合に出ないつもりじゃ」なんて邪推もされたものだったが…。
それが前半30分過ぎにガジェッティが右太ももに肉離れを起こし負傷交代、そこで急遽ピッチに入って、後半36分にはこの試合唯一の得点を決めるのだから、人生何が幸いするかわからない。そのゴールの起点はトップ下イバガサ。センターライン付近で奪ったボールをFWフェルナンド・トーレスに絶妙のスルーパス、彼が右サイドを疾走して上げたクロスをケズマンがヘッドでフィニッシュした。
実はケズマンには、後半15分にも同じようなカウンターからエリア内で右SHマキシのクロスをフリーで受け、どういう訳が大外ししてしまうというチョンボもあった。それだけに2度目のチャンスをしっかりモノにできて、ホッとできたに違いない。本人も「このゴールは自分に必要だった自信を与えてくれた」と試合後はニコニコ顔。そうそう、彼には翌日奥さんが第3子を出産したなんてニュースもあったし、これで気分も良くなってきっと得点も増えるのでは?
ビアンチ監督時代、アトレティコ・マドリーがリードしてから試合終了の笛が鳴るまではずっと「何が起こって追いつかれるかわからないドキドキタイム」だったのが、そうでなくなったのもペペ・ムルシア監督になってからの変化の一つ。選手たちも決して落ち着きを失くさず、必要な時にはちょっとラフなタックルまでして、ガッツのあるところを見せていた。その気合の入りようは、後でレアル・ソシエダの選手から「殴りかかってくるのかと思った」なんて文句も出る程。それもアトレティコ・マドリーサポーターにしてみれば、チームに覇気が出てきた証、彼らの目には却って頼もしく映っていたようだ。
もっともロスタイムには、ベンチ前に監督、スタッフ、控え選手が勢揃いして審判に時間を催促と、まだ完全にトラウマが消えてないようなことはご愛敬。1‐0で無事勝利が確定すると、観客は総立ちで場内は拍手の嵐に包まれた。チームのマフラーを高くかざしているファンも大勢いるし、そんな風景は昨年9月にバルセロナに勝った時以来じゃないだろうか。ほんの数試合前までは、声援より自分たちのひいきチームへのブーイングの方が多かったことを考えると、アトレティコ・マドリーのプレーぶりも随分進歩したものだ。
ようやく一時は遠ざかっていたサポーターの信頼を取り戻し、慎重だった選手たちの間からも、4連勝の勢いを買ってとうとう「何でヨーロッパの大会に出場できるリーガ順位6位以上を目指さない(ケズマン)」なんて声も出始めた。とはいえ、期待されるとあっさりコケるのもこのチームの伝統のようなもの。とりあえずは「まだたった4勝しただけ」というペペ・ムルシア監督の謙虚な姿勢を見習って、1試合1試合着実に勝ち点を積み上げていってもらいたいものだが…。
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