「今週はアラベス戦か…」。16節の予定を見て溜息をついてしまったのは、対戦相手が格下だったせいでも、ここ1ヵ月以上アトレティコ・マドリーが勝っていないせいでもなかった。問題はこの試合がビセンテ・カルデロンでのゲームだということ。市内にあるスタジアムには地下鉄で行けるんだからいいじゃないかというのはちょっと早計。何故なら今シーズン、カルデロンに出向くのは一種の苦行になってしまったから。
その元凶はスタジアム脇を通る高速道路の地下化工事。もともとカルデロンは正面スタンドの下に道路があるという妙な構造をしているのだが、市の再開発計画のせいで今年の7月からずっとその部分が工事中になっているのだ。こちら側の1階席に座る観客は、アスファルトの剥がされた土の地面を歩かざるを得ないので、雨の日など靴がドロドロになるなんて苦情も出る。ビジターチームのバスもロッカールームへの入り口には横付けできず、試合後思わぬところから選手たちが出て来てビックリしたことも。
おまけにスタジアムはマンサナーレス河沿いにあり、これも工事のせいで橋が幾つか閉鎖。迂回する車で周辺はいつも渋滞だ。郊外から来るサポーターなど、「前から駐車場所を探すのは大変だったけど、今じゃ試合の3時間前に来ないと見つからない」と愚痴っていた。
さらに車がないから関係ないと思っていたら大間違い。試合のある日は地下鉄も大混雑する。車両は何駅も前からギュウギュウ詰めで入り込む隙間もなし。何台待っても埒が明かないので、この時ばかりは日本のようにラッシュ時の押し込み駅員がいて欲しいと真剣に願ったほど。しかも以前なら降りるのはピラミデス駅か川向こうのマルケス・デ・バディージョ駅という選択肢があったのに、橋が渡れないから全員がピラミデス駅で降りることに。混雑を避けるため、2駅手前のプエルタ・デ・トレドから20分かけて歩く人も少なくない。
更に駅から続く細い歩道も、スタジアムになかなか辿り着けない原因の一つ。11月末のエスパニョール戦の時など、キックオフしてもまだ1万人近くが駅からノロノロ歩いていたとか。彼らにとって気の毒だったのは、珍しく前半9分という早い時間にアトレティコ・マドリーが先制点を挙げたこと。1試合平均1得点のチームだから、貴重なゴールの報に、大勢の人々が時TVを見るため最寄りのバーに飛び込んだのも無理はない。
エスパニョールの同点ゴールはその2分後、そっちは見られなくて良かったかもしれないが、試合の残りは双方追加点なしで終了。泣くに泣けないとは、正にこのことだろう。近頃成績も振るわないとはいえ、昨シーズンに比べて観客数が毎回約1万人も下回っている。どう見たって、そんな苦労してまでスタジアムへ行こうというファンが減っているとしか思えないが…。
サポーターからは「政治家にもシンパの多いレアル・マドリーだったら、こんなこと起こりっこない」なんて文句も出る。それだけでなく「マドリー市はアトレティコをペイネッタへ行かせたくて嫌がらせをしているのではないか」とまで邪推する向きも。どういう意味かというと、マドリー市が2012年オリンピック開催地に立候補した際に、サッカーの競技会場として郊外のペイネッタにある市営スタジアムを改修することを提案。そのついでにアトレティコ・マドリーにそこをホームとして使って貰おうという話だった。
それが結局開催地はロンドンに決定、計画もお流れになったのかと思いきや、改修費は折半でそちらへ移転してはというオファーが。おまけに所有権は市に100%、クラブは何年たっても借家人のままという渋い条件だったため、交渉は当然進まない。それを踏まえての“嫌がらせ”という訳。
ただようやく不満の声も届いたのか、来年5月終了予定だった工事も1月には終わらせるとのこと。ところが、その数日後発表された高速道路地下化後の付近一帯の緑化プランからスタジアムの姿が消えていたからビックリ。これはコンクールで選ばれた計画だが、その設計チームは「スタジアムの場所は見晴台となる。無理に取り壊す必要はないが、マドリードを囲む山々がスタンドから見えるようにピッチを40メートル底上げしないと」と凄いことを言っていた。ガジャルドン・マドリー市長は「別に移転を強要しているのではなく、もしアトレティコの方からそういう申し出があれば考慮するというだけ」と説明していたが…。
そうこうするうちに、クラブは郊外のアルコルコンに130ヘクタールという広大な土地を自治体から格安で購入。ここにまず自前の練習場を作る予定だが、場合によってはスタジアムの建設もありえるかも。ファンの移転に対する拒否感もペイネッタよりは少ないとか。入場渋滞に避けるために早めに行けばいいとはいっても、スタンドは河からの風で寒いし…。悩んでいるファンはきっと私だけではないに違いない。
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