選手をリラックスさせるのには散歩が一番?

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真っ赤なジャージに身を包んだアトレティコ・マドリーの選手たちが、海沿いの遊歩道をノンビリと歩いている。その中で1人だけ落ち着けないのはフェルナンド・トーレス。1メートルも進まないうちに次のファンに捕まり、サインに応じたり写真を一緒に撮ったりと忙しい。今季彼らがアウェイへ行く度にこの光景がTVで繰り返されていると思ったら、何てことはない。これまでの遠征地がラ・コルーニャ(デポルティーボ)、サン・セバスチャン(レアル・ソシエダ)、マラガと海辺のリゾート地ばかりだったせいだった。

これは試合当日選手たちが身体をほぐすために行う午前中の散歩のこと。チームによっては軽いトレーニングをするところもあるが、どうやらビアンチ監督の好きなのは潮風に吹かれての散策のよう。それにしてもサン・セバスチャン映画祭とぶつかった9月中旬のレアル・ソシエダ戦の時には、市内に宿が取れなくて近所の町に泊まったせいでわざわざバスでビーチまで選手を連れて行ったというから徹底している。当然、先日の木曜日国王杯3回戦ラス・パルマス戦でグラン・カナリア島に滞在した時にもこの習慣は欠かしていない。

ところが、彼らは試合後もマドリーには戻らずもう1日島に延泊して、週末の対戦相手ラシン・サンタンデールの本拠地に直接飛ぶことに。理由は成績の芳しくない今選手の団結心を高めるためとか、移動の手間を省いて体力を温存するためとか色々あったが、そこでふと湧いたのは「ビアンチ監督がマドリーに居づらいのでは?」という疑問。

というのも先日ダービーでレアル・マドリーに大敗して以来、どことなく世間の彼に対する信頼が薄れてきたような傾向があるから。夏には各国代表クラスの新戦力を4人も補強、当のビアンチ監督もアルゼンチンではボカ・ジュニアーズなどを率いて数々の栄光を達成した名指導者。それだけに開幕前は期待されたものだが、7試合を2勝4敗1分けの16位ではファンがガッカリしても無理はない。それに輪をかけたのがダービー戦での消極的な戦略だ。

その試合は前半6分に左SBアントニオ・ロペスが退場、同時にPKでレアル・マドリーに1点が。そのせいで全てが終わってしまったように語られているが、人数的不利になったチームが逆にいいプレーをするようになった例はいくらでもある。そのために大事なのは、もちろん選手のガッツと監督の素早い対応。

ところがビアンチ監督は空いた左SBに誰も入れず、左SHペトロフに上から下までカバーさせる手を選んだ。おかげで、ただ1人サイドから切り込んでクロスを上げられる貴重な人材が体力の消耗が激しすぎて後半はもうバテバテ。FWケズマンも調子が悪そうだったのに、交代させたのは後半敵にダメ押しの3点目を取られてから。

後にビアンチ監督が「ケズマンは代表戦があった土曜から水曜の間ほとんど眠っていなかった」と打ち明けたから、尚更この遅い交代はミステリー。それなら攻撃的MFイバガサを入れて点を取る努力をするなり、守備要員を増やして失点を防ぐなりと他に方法はあったのではと、批判がそこここから噴出することに…。

それに対する監督の答えは、「ペトロフはたった5メートル下がっただけ」「バルサ戦の時にもケズマンを代えろと言われたが最後にはゴールを決めた」「イバガサはリケルメ(ビジャレアル)みたいなトップ下の典型。3人中盤に置く4-3-1-2のシステムならいいが、今使っている2人のSHが外へ開いていく4-4-2でははまらない」というもの。

一瞬もっともにも聞こえなくもないが、実際ペトロフはDFラインまで何度も下がっていたし、ケズマンもその日はほとんどボールに触りもしなかった。おまけに翌々日のラス・パルマス戦では早速システムを変更してイバガサをトップ下で先発に。それだけではない。週末のリーガ戦に備えて大々的なメンバー変更が予想されていたのに、FWフェルナンド・トーレス、ケズマン、CBペレア、パブロと主軸総揃えで2部Bチームに挑んでしまったから驚きだ。

確かにその甲斐はあった。誰もが延長戦を覚悟していた後半41分、イバガサの蹴ったFKをケズマンがゴールしてアトレティコ・マドリーは4回戦に進出できたのだから。とはいえそれまでの試合内容は相手が2ランク下にも関わらず、「TV中継がなくて幸いだった」と言われる程情ないものだったとか。

次のライバル、ラシン・サンタンデールのホームも風光明媚な海辺の避暑地。日曜の朝にサルディネーロ・ビーチを彼らがゾロゾロ歩いていても一向に構わない。今度こそダービー敗戦のショックを乗り越えて、クラブの名前に恥じない試合をしてくれたらいいのだが…。

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