隣のグラウンドに行きたい

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「たったの8人?」その日マハダオンダにあるアトレティコ・マドリーの練習場に着くと、グラウンドがヤケに寂しい。それでここも、FIFAビールス(国際代表戦週間で代表に招集された選手たちが一斉にいなくなること)にやられたチームだったことに気がついた。、パブロ、(スペイン)、ケズマン(セルビア・モンテネグロ)、ペトロフ(ブルガリア)、マキシ(アルゼンチン)、ペレア(コロンビア、)(スペインU21)。改めて勘定してみると随分沢山いるものだ。

残った選手たちは小さい区画で4対4のミニゲーム。コーチ、スタッフの方が多いぐらいなので少人数制集中レッスンかと思いきや、肝心のビアンチ監督が身内の不幸でアルゼンチンに一時帰国中。これではどことなくノンビリムードになってしまうのも仕方ないかも。おまけに人気選手がいないせいか、いつもは金網越しに練習を覗いているファンの姿も皆無。何だか私も間違った日に見学に来てしまったような気がしたが…。

「もっと気合を入れろ!」いきなり隣のグラウンドから大声が聞こえてきて目を移してみると、いつの間にか真っ赤なトレーニングウエアの選手たちがいるわ、いるわ。それは日曜日にリーガ2部B(日本の3部に相当)の試合を控えている、アトレティコB。「ダラダラしている選手たちに監督が怒った」と緊張して見守っていると、何と次に始まったのは合図で4人組を作るゲーム! 遅れて1人取り残されると、花道を作った選手たちの間をバシバシ叩かれながら走り抜けなければならないというペナルティもついている。

結局監督の言葉がジョークだったのかどうかは定かではないが、こちらは若い選手が多いせいでそんなトレーニング(?)も本当に楽しそう。そこでふと目に止まったのは、・スタジアムのゲームでも何度か見ていたFWブラウリオ。

昨季当時のフェランド監督に認められてAチームデビュー。リーガ10試合に出場、国王杯では3得点を挙げた期待のFWだ。今季はプレシーズンをAチームと過ごしたものの、最終的に登録はBチーム。必要に応じてAとBの試合に出場すると聞いていたが、何故か開幕サラゴサ戦には呼ばれず。その代わりアトレティコBの開幕戦先発で90分間フル出場した。

移籍市場クローズ間際には現在2部にいるレアル・マドリーBからレンタル移籍の話もあったという。一見ワンランク上のカテゴリーでプレーできる方がいいのではと思えるが、「とにかく自分の頭の中にはアトレティコしかなかった」ので考えもしなかったそうだ。おそらくそれは現実的という点に置いても正解なのだろう。

何故なら、レアル・マドリーBにいても超一流のFWひしめくAチームに抜擢される可能性はほとんど皆無。もし上がれても、レンタル移籍を繰り返すポルティージョの例を出すまでもなく、出場機会に恵まれないのは目に見えている。

それに比べてアトレティコ・マドリーの純粋なFWはフェルナンド・トーレス、ケズマンだけ。同じカンテラ(下部組織)出身のアリスメンディがいるものの、彼も開幕戦には呼ばれていない。もし誰かが怪我や出場停止にでもなれば、当然ブラウリオに出番が回って来る。

おまけにBチーム所属なら試合にも出場可能。Aチームのベンチに入れない時に週末を無駄にせず、ベンチ生活が続いて不満が鬱積する怖れもない。「ビアンチ監督に呼ばれなくても、練習で手を抜いたりはしない。いつか必要とされた時に応えられるようにね」と語るブラウリオはもうすぐ20才。それで1児の父だというからちょっとビックリだが、そのことがいいモチベーションになっているのかも。

実際、彼だけでなくグラウンドを仕切る柵を乗り越えてAチームへ行ってやろうという選手には事欠かない。とりわけ今季Aチームの登録メンバーがたったの20人とあって、何かの時には声がかかるのを誰もが今か今かと待っている。彼らの目標は揃ってフェルナンド・トーレス、同じように下のチームで育った今やアトレティコ・マドリーだけでなくスペインを代表するFWだ。

そこまで才能のある選手が現れるのはなかなか難しいのだが、少なくともここではリーガ1部デビューはかなり実現性の高い夢だ。ビアンチ監督は若い選手を見出して育てるのが得意とも聞くし、とにかくシーズンは長い。今季はそのうちメンバー表に見慣れない名前が登場する日も結構あるのかもしれない。

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