スペイン国内でも注目を集めていたアトレティコ・マドリー対バルセロナ戦が19日(現地時間)、アトレティコ・マドリーのホームで行われた。
試合は5万5000人の大観衆が見守る中で始まった。試合開始からアウエーであることなどものともせずに、バルセロナの選手たちは生き生きと動く。中盤の底に入ったエジミウソンがボールを持つと、その前方の全選手がスペースを作る動き、ボールをもらう動きを実にうまく連動させて行う。そして、リズム良くパスを回し、バルセロナが完全に試合の主導権を握る。
逆にアトレティコ・マドリーはボールを回されるものの、1対1の局面を極力作らないよう、中盤から素早くて激しいプレッシャーをかけ続ける。仮に1対1の場面ができても、すぐさま近くの選手が飛んでくる。圧倒的にボールを支配されながら、プレッシャーをかけ続けることを惜しまないアトレティコ・マドリーのイレブンからは、この一戦にかける意気込みがにじみ出ているようだった。
ボールを効果的に回し、相手陣内でプレーし続けるバルセロナ。それに必死に食い下がるアトレティコ・マドリーという構図で試合が進んでいく。
前半10分。この試合最初の見せ場が訪れる。バルセロナが、ゴール左寄り35メートルの位置でフリーキックを得た。キッカーはロナウジーニョ。大ブーイングの中、ロナウジーニョの蹴ったボールは鋭い弾道でアトレティコ・ゴールを襲う。響いていたブーイングが悲鳴に変わる。誰もがゴールだと思った瞬間、アトレティコ・マドリーGK、レオ・フランコが見事な反応でボールを弾き出した。
続く前半14分。今度はアトレティコ・マドリーがチャンスを迎える。アトレティコ・マドリー陣内でボールを回すバルセロナの最終ラインはハーフライン近くまで上がってきていた。その裏をF・トーレスが突く。左サイドにドリブルで抜け出たF・トーレスがそのままペナルティーエリア内に侵入。強烈なシュートを放つ。シュートはバルセロナGK、ビクトル・バルデスの正面に飛んだもののキャッチすることができず、こぼれたボールをイバガサが押し込もうとしたが、一瞬早くバルデスが飛びついた。
前半15分を過ぎると、アトレティコ・マドリーがチャンスを多く作るようになる。バルセロナに自陣でボールを回されているのは変わらないが、ボールを支配するバルセロナ最終ライン後方にできたスペースを利用することができるようになったからだ。
だが、先制点を挙げたのはバルセロナだった。前半21分。ボールを奪ってカウンター攻撃に入ろうとしたアトレティコ・マドリーMFイバガサのパスが審判に当たり、バルセロナのジウリーのもとへとこぼれる。審判に対する大ブーイングの中、ボールはロナウジーニョに展開され、ロナウジーニョが左サイドでドリブルを仕掛ける。アトレティコ・マドリーは素早く対応し、ロナウジーニョの突破は防いだものの、こぼれたボールをバルセロナ左サイドバックのファン・ブロンクホルストの左足が強烈にとらえた。シュートはものすごい勢いでアトレティコ・ゴールに突き刺さり、先制ゴールが生まれた。
このゴールを足がかりに、さらにバルセロナの猛攻が続く。だが、それとは逆に1対1の場面でアトレティコ・マドリーの選手が競り勝つ場面が少しずつ増えはじめる。劣勢の中、耐えに耐えるアトレティコ・マドリーの選手たちの姿が超満員のスタジアムに何かを伝える。リードされてはいるものの、この日のアトレティコ・マドリーはこのまま終わりはしないだろう、という雰囲気が漂い始めたころに前半が終了した。後半開始直後、その雰囲気は喜びに姿を変え爆発する。
後半3分。自陣から入れられたハイボールを前半30分から投入されていたアトレティコ・マドリーFWサルバが絡む。バルセロナのCBプジョルと競り合ってこぼれたボールがF・トーレスのもとへと落ちる。それを拾ったF・トーレスがそのままドリブルで持ち上がり、落ち着いてバルセロナゴールに押し込んだ。スタジアムの空気が大観衆の絶叫で揺れ動いた。
同点に追いついたアトレティコ・マドリーは相変わらずボールの支配権を奪うことができない。だが、守備の際の動きはスタンドから響きつづける大合唱とともに生き生きとしていく。立て続けに訪れる大ピンチを切り抜けるたびにスタジアムと選手たちの一体感が高まっていく。
後半28分。バルセロナMFシャビがピッチ中央からドリブルで持ち上がり、ロナウジーニョとワンツーを決めペナルティーエリア内へと侵入する。シャビはDFとGKをかわしシュートを放つ。バルセロナの勝ち越しゴールが生まれたかと思われた瞬間、1人の男がシュートのコースに滑り込んだ。左サイドバックのセルジだった。ボールを弾き出したセルジをGKレオ・フランコが抱き上げる。スタジアムは同点ゴールが生まれたとき以上の興奮に包まれた。
このワンプレー以降、バルセロナの猛攻が徐々に陰をひそめていく。試合開始から自信満々に攻撃を仕掛け続けてきたバルセロナを、ついにアトレティコ・マドリーの闘志ある守備が上回ったかのようだった。相変わらずバルセロナは攻撃を続け、きわどい場面を作り出すものだが、その攻撃はまるでアトレティコ・ディフェンスの素晴らしい集中力をさらに浮き彫りにさせるようなものになっていった。
1対1のまま試合が終了した時には、スタジアムは拍手の嵐だった。その拍手はバルセロナの猛攻にひるまず勇敢に戦った選手たちと、その選手たちを信じて熱い声援を送り続けたサポーター自身に向けられたものだった。
試合後、バルセロナのライカールト監督はすっきりとした表情で会見場に現れ、こう語った。
「今日もバルセロナはバルセロナらしい攻撃的なサッカーを披露した。結果は引き分けだったが、今日の試合を見ればこの結果に文句を言うことはできない。この引き分けは決してネガティブなものではないことを自覚し、今後もこれまでのように私たちは仕事を続けることが重要だ」
また、バルセロナのMFエジミウソンも、この日のアトレティコ・マドリーへ敬意を表した。
「アトレティコ・マドリーの選手たちのプレーする姿勢は対戦した私たちに尊敬の念を抱かせた。彼らのスピリットは私たちを大いに苦しめた。私たちのプレーは普段と変わりなく高いレベルであったと思う。勝利を得られなかったことは残念ではあるが、彼ら(アトレティコ・マドリー)を相手に勝ち点1を獲得できたことに私は満足している」
リーグ序盤の大一番とも言えたこの試合は、バルセロナの圧倒的な攻撃力とアトレティコ・マドリーの凄まじい闘志によって1-1というスコア以上の興奮を呼ぶものだった。そして、両チームが見せた“バルセロナの攻撃力”と“アトレティコ・マドリーの闘志”はまだ先の長い今シーズンにおける両チームの最大の顔であるということを改めてスペイン中に伝えたのではないだろうか。
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