新しい居場所、変わらない熱狂…アトレティコがワンダ・メトロポリターノ初戦で白星を飾る/リーガ第4節

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16日のリーガエスパニョーラ第4節、アトレティコ・マドリーは新たな本拠地ワンダ・メトロポリターノでの初戦、マラガとの試合を1−0で制した。

2017年9月16日。アトレティコ、ひいてはスペインフットボールにとって、ただ訪れるだけで歴史となる日である。アトレティコの新スタジアム、ワンダ・メトロポリターノのこけら落とし。スペイン唯一無二の情熱のスタジアムとされたビセンテ・カルデロンに別れを告げ、アトレティコは新たなる居場所を持った。

レティーロ(1903年〜)、オドネル(1913年〜)、メトロポリターノ(1923年〜)、カルデロン(1966年〜)に続く、アトレティコにとっては五つ目の本拠。1966年にアラゴネス氏が公式戦で初めてのゴールを記録し、それから51年の歴史を積み重ねたカルデロンは数多くの家族が世代を超え、いわゆる「父に手を引かれてカルデロンにやってきた」ところから始まり、勝利、敗北、引き分け、降格、昇格、優勝、歓喜と悲しみの涙と、あらゆることを経験した思い出深い場所だった。

それだけに、新メトロポリターノという新たな家に住み着いた最初の時期は、カルデロンというノスタルジーとの対峙もあるのかと予感させた。が、やはり最も大切なのは場所ではなく、人だった。もちろん6万8000人のキャパシティ(カルデロンは5万5000人)、スタジアム内に三つ設置されたLGの大型ビジョン、フィリップスの外観及び内観を染める16万色発光のLEDライトを備えた建設費3億ユーロのスタジアム、新メトロポリターノはこの上ない場所だ。けれども、この新スタジアムをアトレティコのカラーに染めたのは、試合前からイムノや「テ・キエロ・アトレティ(アトレティ)!」、「アトレティへの愛、お前には分かるまい」などのチャントを力の限り歌うファンだった。

キックオフ直前には、アトレティコと一時合併していたスペイン空軍によるパラシュート降下のデモンストレーション(赤白やスペインの旗を掲げた軍人たちがパラシュートでピッチに着地)があり、ファンは配布された赤白の旗を振ってスタジアム内部を言葉通りクラブカラーに染め上げる。そしてガラテ氏、、現在カンテラでプレーに励む少年と、過去・現在・未来を代表する人物たちによる始球式が行われ、カルデロンよろしく大きな熱狂が渦巻く中で、記念すべき試合がスタートした。

「私たちチームにとって重要なのは、ピッチ上で起こることだけ」。試合前の会見でそう語ったシメオネ監督は、GKオブラク、DFフアンフラン、ゴディン、ルーカス、フィリペ、MFサウール、トーマス、、FWグリーズマン、アンヘル・コレアと、カンテラーノ5人(中盤4人&ルーカス)を含めたスタメンを起用して4−4−2のシステムを採用。前半は、ボールを保持しながらもマラガの組織的な守備を前になかなかフィニッシュまで持ち込めない。37分には速攻からバストンの決定機を許すも、GKオブラクが好守を見せ難を逃れた。

シメオネ監督はハーフタイムにトーマスを下げてカラスコを投入。カラスコを左サイドに位置させ、そこに位置していたサウールとガビの2ボランチとした。カラスコの推進&突破力を生かしつつマラガ陣地深くまで押し込むようになるも、コケがGKロベルトとの1対1の場面でシュートを防がれるなど、得点は遠い。シメオネ監督はこれを受け、F・トーレス投入を準備を進める。しかしエル・ニーニョがサイドラインに立って出場を待つ中で、記念すべき新メトロポリターノの初ゴールが決まった。得点者は、グリーズマンだ。

61分、アンヘル・コレアが右サイド深い位置まで侵入してマイナスのクロスを送る。マークについていたルイス・エルナンデスを背後から追い抜きながらボールに駆け寄ったグリーズマンは、巧みな右足のダイレクトシュートでネットを揺らした。背番号7はアラゴネス氏がカルデロンでそうしたように、新メトロポリターノ最初の得点者としてその名を刻んだ。

シメオネ監督は66分、もう一度ウォームアップを命じていたF・トーレスを、コレアとの交代で今度こそピッチに立たせる。観客は無償の愛を注ぎ続けるアトレティコの絶対的アイドルに対して、大きな拍手を送った。その後、追加点を奪おうと試みたアトレティコだがマラガの守備を崩すには至らず、88分にはペナルティーエリア内でロランのシュートを許すも、GKオブラクのさらなる好セーブにより失点は回避。クラブのアイデンティティーの一つである「苦しみ」もしっかりと味わいながら、1点リードを最後まで守り切った。

試合終了後、スタジアムにはスペイン人歌手ホアキン・サビーナによるクラブ創立100周年イムノが流れる。「何て勝ち方、何て負け方、何て苦しみ方、何て信じ方、何て夢の見方、何て死に方、何て生き方。金があってもなくても私たちが一番。ビバ! 私のアトレティ・デ・マドリー!」をサビとするイムノがスピーカーから響く間、選手たちは場内を一周しながらファンに感謝を告げ、彼らが去った後には赤白のLEDと上空の花火が新メトロポリターノの開場を華々しく彩った。

シメオネ監督は試合後、このこけら落としを次のように振り返る。「凄まじい門出となった。選手、監督として同じようなものを目にしたことがない。私の全人生を通しても、素晴らしい思い出となるだろう。あれだけの赤白の旗が一度に揺れるなど……。感動的であり、テレビを見ていた人々にとっても絶対にスペクタクルだったはずだ」。またF・トーレスは「いつかこのユニフォームを着ること、このスタジアムでプレーすることを懐かしく思うはずだ。カルデロンにあった精神をここに持ち込めればいい」と語った。

カルデロンにあった精神、それはこの試合からすでに根付いていた。クラブ、チーム、ファンの血が流れ、コンクリートの心臓はもう脈を打ち始めている。しかし、歴史はまだ始まったばかりだ。ワンダ・メトロポリターノは試合が開催される度にアトレティコの人々ならではの濃厚な感情にその身を浸し、「世界で唯一の私たちの場所」となっていく。

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