「金メダル以外は意味がない」。リオデジャネイロ・オリンピックで頂点に立てなかった有力選手たちは次々にそうコメントしたが、アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督もその気持ちが痛いほど分かる人間の1人だろう。
昨シーズン、アトレティコ・マドリーはチャンピオンズリーグ決勝でレアル・マドリーに敗れて、準優勝。ここ3年間で2度も、同じ相手に優勝を阻まれた。そのショックの大きさは、試合終了直後の会見で指揮官自ら辞任を示唆したことに表れていた。「銀メダル」で満足できないのは、選手たちもまた同じだったはずだ。
幸い、シメオネ監督は、短いオフの間にモチベーションを取り戻し、続投を決意。先月にはアルゼンチン代表監督就任の噂もあったが、全く興味を示すことなく、就任6年目のシーズンに挑もうとしている。
今もって昨シーズンの成績を振り返ってみると、リーガ・エスパニョーラは3位、CLは準優勝、そしてコパ・デル・レイは準々決勝敗退だった。つまり、シーズン無冠である。実はシメオネ体制において1シーズンの間に何のタイトルも取れなかったのは、昨シーズンが初めてのことだった。それだけに、タイトル獲得は今シーズンにおける“最低目標”とも言える。
とはいえ、スペイン国内ではバルセロナとレアル・マドリー、そして欧州ではさらに多くの強豪クラブを相手にしながら、優勝を狙うのは並大抵の作業ではない。昨シーズンと何も変わらないのでは、悲劇が繰り返される可能性は高く、これまで積み上げてきたものに加えて、さらに1段、2段のレベルアップが求められる。
なかでも改善の余地があるのは、攻撃面だ。昨シーズンは、鳴り物入りで加入したジャクソン・マルティネスがアトレティコ・マドリー独特のスタイルにフィットせず、在籍わずか半年で退団。さらにシメオネ監督の愛弟子として期待されていたルシアーノ・ビエットも、公式戦3ゴールという散々な成績に終わった。1人で公式戦32ゴールをマークしたアントワーヌ・グリーズマンや、自身6シーズンぶりのリーグ戦2桁得点を記録したフェルナンド・トーレスの奮闘があったにせよ、彼ら以外に頼れるストライカーがいなかったことが、あと一歩でタイトルを逃す要因となった。
その反省を踏まえ、フロントは今夏、リーガで十分な実績を残し、なおかつシメオネ監督が志向するスタイルに合致する選手を補強候補にリストアップした。そして、OBのジエゴ・コスタとセビージャで昨シーズン公式戦29ゴールを挙げたケヴィン・ガメイロに的を絞って交渉を重ね、結果として後者をクラブに迎え入れた。ゴールを奪うことと同様に前線からのプレッシングも要求されるアトレティコ・マドリーのFW像に近づくには、ある程度の時間を要するかもしれないが、カウンターサッカーには打ってつけの選手だ。セビージャ時代のパフォーマンスを見れば、セルヒオ・アグエロ、ディエゴ・フォルラン、ラダメル・ファルカオといった、クラブで大きな成功を収めた外国人ストライカーの系譜に名を連ねる可能性は十分にある。
さらに、ニコラス・ガイタンの入団も今夏のビッグニュースだろう。スピードと技術に優れた左利きの攻撃的MFは、前所属のベンフィカで毎シーズンのように10前後のアシストを記録。ドリブルでの局面打開力も備えており、ヤニック・フェレイラ・カラスコ同様、“ジョーカー”としても期待できる。シメオネ監督自ら獲得を望み、通算3度目のオファーにして、ようやくアトレティコ・マドリー入団が実現しただけに、ファンや地元メディアからの期待も大きい。さらにポルトガルのパソス・フェレイラからは、10代にして、昨シーズンの国内リーグで14ゴール、10アシストを記録したジョタを獲得しており、攻撃力アップという課題をクリアするための人材は揃った。攻撃陣の選手層は間違いなく厚みを増している。
一方で、システムや戦い方に関しては、昨シーズンから変わらないようだ。シメオネ監督は過去数シーズン、前線を3トップにしてみたり、人数をかける遅攻を戦い方のバリエーションに加えようとしたり、新しいことに挑戦する意欲を見せていたが、今夏に限ってはそうしたことにあまり積極的ではない。むしろ、堅守速攻をベースとする“シメオネスタイル”をさらに極めることを優先しているように見える。
実際、昨シーズンのCL決勝でボール支配率が50%を上回ったように、時間をかけて熟成された組織力のおかげで彼らはボールを保持することもできるようになった。それが得意技ではないとはいえ、新しいことにトライしようとして失敗し、再び軌道修正することに時間を要するくらいなら、我が道を究めることに精力を注ぐほうがベターということなのだろう。
指揮官のそうした姿勢は、今夏、主力選手たちの引き抜きが皆無だったことが影響しているのかもしれない。これまでは、ピッチ内での成功の代償として、中心選手の引き抜きがオフの恒例イベントだった。しかし、今シーズンの主な退団選手は、ビエット(→セビージャ)、マティアス・クラネビッテル(→セビージャ)、ヘスス・ガメス(→ニューカッスル)と、いずれも控えメンバーであり、昨シーズンのリーグ最少失点を記録した守備陣を筆頭に、中盤から後方にかけてはレギュラークラスが全員残留を果たした。そのため、チーム作りを一から見直す必要がないのだ。それはアトレティコ・マドリーのようなクラブがタイトルを争ううえでは、大きなアドバンテージとなる。
「リーガ、コパ・デル・レイ、CLの3つの大会、全てにおいて昨シーズン以上の成績を収めることだ」
シメオネ監督はオーストラリアでのプレシーズンキャンプ中、今シーズンの目標について聞かれると、そう語った。ややオブラートに包んだ言い方をしているが、「昨シーズン以上」ということはつまり、少なくとも欧州制覇を狙っているということになる。これまで、「1試合ずつ」が合言葉だった指揮官にしては、やや大胆なコメントだが、それだけタイトル獲得への意欲に溢れていると読み取れる。
果たして、アトレティコ・マドリーは悲願の「金メダル」を獲得することができるのか。大きな悔しさを味わった彼らの新シーズンは、これまで以上に目の離せないものとなりそうだ。
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