“モウ”対シメオネの個性派対決。CL準決勝は屈指のカウンター合戦!

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 4月も後半に入り、欧州では国内外で優勝争いが佳境を迎えつつある。今季のイングランドでは、チェルシーだけがプレミアリーグとCLの双方で可能性を残してラスト1カ月を迎えた。

 そのチェルシーのリーグ優勝を「サッカー界のためにも歓迎できない」と言うのは、マンチェスター・シティのマヌエル・ペジェグリーニ監督だ。攻撃志向の指揮官は、「より多くの得点を上げ、より見応えのあるサッカーをするチームこそが王者に相応しい」と、その理由を説明している。

 たしかに、チェルシーがプレミア優勝戦線に踏み留まっている理由は、得点の多さではなく失点の少なさにある。4月13日のスウォンジー戦では、前半16分で10人になった格下相手に1-0留り。反面、無失点試合はリーグ戦だけで今年に入って10試合目となった。

 但しそのスタイルは、ペジェグリーニの発言から連想されるほどネガティブな守備重視ではない。チェルシーのカウンターは、2月のマンC戦(1-0)がそうであったように、アウェイであっても前半から4名が相手ペナルティエリアを目指してゴールを狙う。相手CKの場面では、中盤に2名を残し、更に2、3名が即座に後方から駆け上がっての反撃を意図している。得点意欲が低いわけではなく、攻撃陣も高い守備意識を持っているということだ。そして、この特長こそがCLベスト4入りを可能にした。

攻撃色の強化と、結果を両立してきたチェルシー。

 今季のチェルシーは、本来は堅守志向のジョゼ・モウリーニョ監督を先頭に、攻撃色の強化に取り組んでいる。とはいえ、勝者のメンタリティーを「自分のDNA」と呼ぶ指揮官と、要求レベルの高い富豪オーナーが結果を蔑ろにすることはない。

 バーゼルに足をすくわれたCLグループステージ第1節(1-2)で、守備面の警笛が鳴らされた。そこからカウンターの比重を上げたチェルシーは、ライバルと目されたシャルケからも2戦合計6得点0失点で2勝を奪い、グループ首位で決勝トーナメントに進出している。結果として、比較的楽なガラタサライを相手にベスト8に駒を進めることができた。

「カウンター対決」の軍配はどちらに?

 PSGとの準々決勝第1レグでは、モウリーニョが「我々は3.5ゴールを決めた」と自嘲したように、守備陣に異例の個人ミスが重なって敗れた(1-3)。

 しかし、ホームでの第2レグでは完璧な修正ぶりを見せる。慎重な入り方から狙い通りの零封勝利(2-0)を演じ、アウェイゴールの差で勝ち上がった。第2レグでリードした直後の失点を境にバイエルンに完敗した、マンチェスター・ユナイテッドとは好対照だ。

 だからこそ、アトレティコ・マドリーとの準決勝は興味深い。もう一つの準決勝レアル・マドリー対バイエルンよりも地味な印象だが、実際にはポジティブな「カウンター強者」対決が期待できる。

絶対の守護神は、実はチェルシーからのレンタル。

 ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコは、監督の個性が反映されたチームという意味でも、モウリーニョのチェルシーに通じるものがある。元アルゼンチン代表のシメオネは現役時代、タフなボランチとして知られた。就任3年目のアトレティコも、ちょっとやそっとでは足下がふらつくことはない。今季のCLでは唯一の無敗でベスト4に進出。グループステージから準々決勝までを最少の計5失点で乗り切っている。

 長身で反応も良いティボ・クルトワがゴールを守り、身体能力に恵まれたディエゴ・ゴディンが4バックの要となる守備陣は、欧州「最堅」レベルのユニットだ。

 加えて、前方にも欧州で最も統率の取れた守りを披露できる攻撃陣がいる。ジエゴ・コスタとダビド・ビジャの両FWは相手ボランチへのプレスを厭わず、ガビ、、コケといったMFは、いずれも運動量が豊富だ。シメオネのアトレティコは、後方を締め、中盤で執拗に敵を追い回しながらカウンターで結果を勝ち取ってきた。

 五分五分と思われる勝敗の行方を左右する要素として、クルトワ出場の可否がメディアで指摘されている。21歳で既に絶対的な守護神の存在が、アトレティコに安心感を与えていることは言うまでもない。

 しかしその所有権の持ち主は、あろうことか対戦相手のチェルシー。今季が3シーズン目のレンタル移籍契約には、直接対決での起用に1試合4億円台の支払いを伴う項目が盛り込まれているという。100億円規模の負債に苦しむアトレティコにとっては、事実上の起用不可を意味する項目だ。

クルトワの不在はアトレティコにとって致命傷か?

 CL主催者のUEFAは、フェアプレーの精神に反する項目だとして、この契約内容を認めないスタンスを示した。だがアトレティコには別の悩みがある。来季のレンタル契約更新を望む「持たざる者」は、契約相手との良好な関係を失うわけにはいかない。クルトワ起用で相手の機嫌を損ねれば、ただでさえUEFAの介入を面白く思っていないと言われるチェルシーは、若き逸材のレンタル修行継続を止め、来季からはベテランのペトル・チェフと自軍ナンバーワンの座を競わせる道を選びかねない。

 アトレティコには先方が獲得を狙うジエゴ・コスタがいるが、そこは「持てる者」の強み。チェルシーは、スペイン代表FWの契約解除を可能にする約55億円で買い上げればよいだけのことだ。

 しかしながら、チェルシーとの対戦でクルトワの有無がそれほど大きな影響を及ぼすことになるのだろうか? バルセロナを合計2-1で下した準々決勝では、敵地での第1レグ(1-1)終盤にクルトワのセーブ連発に救われた。だがチェルシーとの初戦で、極端な劣勢をGKの活躍で凌ぐ時間帯が続くとは思えない。互いにカウンターを身上とする両軍のうち、攻勢に回る時間が多い可能性が高いのは、第1レグをホームで戦うアトレティコの方だろう。

ラインを上げた方が大きなリスクを背負う展開に。

 22日の準決勝第1レグで、バルセロナとの準々決勝第2レグと同様、アトレティコがラインを上げて仕掛けてくれば、チェルシーとしてはしめたものだ。敵にボールを支配されないことが前提のようなバルセロナ守備陣とは違い、チェルシー守備陣には耐久力がある。

 無失点試合を重ねて自信を増しているジョン・テリーとギャリー・ケイヒルの両CBと、ボランチで先発するはずのダビド・ルイスを中心に、敵の強力2トップを注視することは可能だ。

 右SBのブラニスラフ・イバノビッチは警告累積で出場できないが、代役のセサル・アスピリクエタは、本職とは逆の左SBとしても「1対1では現在無敵」と指揮官が信頼を寄せる好調を維持してきた。人数を割くカウンターで敵を牽制しながら、アウェイで納得のスコアレスドローは現実的だ。

経験の面でチェルシーにアドバンテージか。

 となれば、30日の第2レグでは、果敢なカウンター合戦で僅かながらチェルシーが有利。トランジションの素早さは互角で、かつ互いのFW陣はマークされるとしても、MF陣の決定力でチェルシーに分があると思われる。

 国内での得点数において、、オスカル、ウィリアンの3名によるプレミアでの25ゴールが、、ガビ、アルダ、ラウール・ガルシアの4名によるリーガでの計20ゴールを上回っているという4月半ば時点の数字もある。

 PSGとの第2レグで痛めたアザールのハムストリングが万全でなくても、アンドレ・シュールレという代役がいる。交代出場したPSG戦でも正確なボレーを決めたように、ゴール前での冷静さではシュールレが2列目要員でトップと言っても差し支えない。

 更に集団としての冷静さにおいても、決勝まであと90分という興奮とプレッシャーの中、監督としてのシメオネを筆頭にCL準決勝初体験のアウェイチームを、8度目のモウリーニョ、テリーらの古株は7度目となるCL準決勝を戦うホームチームが凌ぐと考えるのが妥当だ。甲乙つけ難いカウンターの「強者」対決は、「巧者」としての試合運びがしやすいチェルシーに際どく軍配が上がると見る。

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