スペイン代表の正FW候補が登場!“問題児”ジエゴ・コスタの覚醒。

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 敵陣でフィリペ・ルイスがディマリアからボールを奪い、コケが素早くディフェンスライン裏へ短いスルーパスを通す。次の瞬間、フリーで抜けだしたジエゴ・コスタがGKとの1対1を難なく制し、この試合で唯一のゴールを流し込んだ。

 9月28日行われたリーガ・エスパニョーラ第7節。13年半にわたるダービー未勝利の歴史に終止符を打った昨季のコパ・デル・レイ決勝に続き、再びアトレティコは敵地サンティアゴ・ベルナベウで宿敵レアル・マドリーを撃破した。

 コパ決勝と同じく、この日もマドリーのゴールネットを揺らしたのはジエゴだった。彼はここまでメッシと並ぶリーガトップの8ゴールを挙げ、クラブ史上初の開幕7連勝と躍進するチームをけん引している。

 強靭なフィジカルと柔らかなテクニックを兼ね備え、大柄な体格の割にスピードと機動力もある。ディフェンダーを弾き飛ばしながら突進していくパワフルなドリブル突破は迫力満点で、今やアトレティコのカウンター戦術に欠かせない武器となっている。

 この2シーズンのうちに課題の得点力も急速に向上してきた。昨季リーガで28ゴールを挙げたファルカオの不在を感じさせず、目玉補強であるビジャの存在すら薄れさせる輝きを放っている彼は、間違いなく現在リーガで最も乗っているストライカーである。

復帰直後、後半戦だけで10ゴールをあげた昨年。

 ジエゴがアトレティコと契約したのは2007年、まだ18歳の時だ。それから定位置を掴む昨季に至るまで、彼は長い下積み生活を送ってきた。

 入団当時はフォルラン&アグエロが不動の2トップを形成していたため、はじめの2シーズンは2部クラブへレンタル移籍。3年目はバジャドリーにて2部降格を経験し、ようやくアトレティコで開幕を迎えた4年目も僅かな出場機会しか得られなかった。

 さらに在籍5年目の一昨季にはプレシーズン中に右膝の前十字靱帯を断裂し、6カ月の離脱を強いられる。復帰後に待っていたのは、EU外国籍枠の不足で選手登録すらできない状況だった。

 しかし、ジエゴの躍進はそこからはじまった。1月にプレーの場を求めてラージョ・バジェカーノへレンタル移籍すると、後半戦だけで9ゴールを挙げる活躍で1部残留に貢献。そしてファルカオ、アドリアンに次ぐ第3FWとしてスタートした昨季途中にとうとうアトレティコで定位置を勝ち獲ったのである。

スペイン国籍を取得、代表招集の可能性が……。

 苦節6年、ようやくアトレティコの選手として認められるに至ったジエゴは、8月に2018年までクラブとの契約を延長した。

 先日は新たな朗報も届いた。7月にスペイン国籍を取得したことで、スペインフットボール協会がFIFAに代表招集の可否を問い合わせたというのだ。

 ジエゴは今年3月の親善試合にてブラジル代表デビューを果たしているが、まだ公式戦でのプレー経験はないためスペイン代表を選ぶ権利を持っている。

 しかもブラジルのスコラーリ監督は6月のコンフェデレーションズカップに彼を呼ばず、9月の親善試合でもコンフェデ組を継続して招集した。そしてセンターFWのフレッジがケガで不在となる10月の親善試合に向けても、これだけ好調を維持するジエゴを呼ばなかった。

 一方のスペインも優秀なFWを多数擁するものの、ビジャが長期離脱に陥って以降は絶対的なストライカーが不在となっている。

 既存メンバーのトーレス、ソルダード、ネグレド、ジョレンテらはいずれもデルボスケを納得させることができておらず、今季は現所属クラブで定位置すら掴めていない。これまでの実績を無視して現時点の状態だけを考えれば、絶好調のジエゴは第一に声をかけるべきFWなのだ。

リーガで1、2を争う“素行”の悪さ。

 ただ、ジエゴの代表招集に対しては懸念の声もある。理由はリーガで1、2を争う“素行”の悪さである。

 報復行為にシミュレーション、レフェリーへの執拗な抗議。メンタルの未熟さから出るこれらの言動により、これまでジエゴは不要な警告や退場処分を受ける過ちを幾度となく繰り返してきた。

 そんな彼を煙たがり、厄介者としてきた歴代の監督達とは違い、シメオネは彼に全面的な信頼と責任感を与えることで精神面の成熟を促している。そんな指揮官の下、ジエゴも徐々にプレーに集中できるようになってきたのだが、なにせ多数の“前科”を持つ彼には既に多くの敵がいる。そしてその中には、スペイン代表の常連組も含まれている。

 何よりデルボスケはこれまで常にチームの和を最優先し、選手達にも謙虚さや協調性を求めてきた。そんな指揮官がワールドカップまで1年を切った現時点で新たな火種をチームに混入するには、それ相当の理由が必要なはずだ。

 逆に言えば、それでもデルボスケがジエゴの招集を検討しているということは、彼の活躍がそれ相応の理由になろうとしている証拠だと言える。

エリート揃いのスペイン代表に馴染めるのか。

 それは大衆の意見にも表れている。スポーツ紙がウェブサイトで行ったアンケートでは、ジエゴを次回の代表戦に招集すべきとの回答がマルカ紙で67%、アス紙で71%にも上っていた。

 素行の問題に加え、そのプレーが“ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)”のポゼッションスタイルにはまるかどうかも未知数である。ただ、それでも一度見てみたい。これらの反応からは、そんな人々の期待感が見て取れる。

 16歳までチームには属さずストリートで技を磨き、ポルトガルで初のプロ契約を結び、スペインで成り上がったブラジル人FW。

 世界最高の育成組織で英才教育を受けてきたバルサ勢が中核を占める現在のスペイン代表に、出自も、経歴も、性格も、プレースタイルも異なるジエゴは融合し得るのか。

 その結果がどうであれ、いつしか勝ち慣れた優等生集団に物足りなさを感じはじめた贅沢な国民にとっては、異物の混入という行為自体に刺激や魅力を感じているのかもしれない。

 高まる人々の期待を尻目に、ジエゴ本人は冷静に現実を見つめている。

「スコラーリはメンバーを固定したチームで戦っているし、スペインの主力も固まっている。呼ばれたこともない選手が入っていくのは難しいよ。ネグレド、ソルダード、ビジャといったレベルのストライカーがいるならなおさらだ」

 だが彼は、こうも言っている。

「まだスペインからは何も言われていない。噂を耳にするだけだけど、希望は捨てていない。ブラジルとスペイン、どちらかを選べる立場になった時には、自分が望む方を選ぶよ」

 今の活躍を続けていれば、スコラーリからも声がかかる可能性は十分にある。本当に2つの代表を選べる立場になった際、はたして彼はどちらを選ぶだろうか。

 それは彼の今後のキャリアを左右するだけでなく、来年のワールドカップで優勝を目指す2カ国の命運を分ける決断となるかもしれない。

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