カンプノウでのバルサ対レアルに世界が注目した夜、リーガにとっては同様に重要な一戦がマドリー市内のビセンテ・カルデロンで行なわれた。
2位のアトレティコ対3位のマラガである。
試合は開始まもなくファルカオのゴールでアトレティコがリードし、前半のうちにマラガが同点とし、その後も拮抗したが、90分を廻ったところでウェリグトンのオウンゴールがあって、アトレティコが勝者となった。
アトレティコはこの3日前に行なわれたELのビクトリア・プルゼニ戦でも90分過ぎに“セボーヤ”ロドリゲスがミドルシュートを決め、劇的な勝利を収めている。
こういう形で勝てるチームは強い。
昨季のレアルも負けや引き分けで終わりそうな試合をことごとく制して優勝したし、事実アトレティコも獲得ポイントで現在首位のバルサに並んでいる。ちなみに、アトレティコが最初の7節を6勝1引き分けで終えたのはリーガと国王杯の2冠王者となった’95-’96シーズン以来のことだ。
横暴なフロントを手懐けた、シメオネ監督の深謀遠慮。
アトレティコというクラブはフロントが極めて特殊である。監督の選択が甘い上、長期的ヴィジョンを持たないため、毎年そこそこの選手を揃えながら、継続的に力を発揮できるチームが作れない。
ところが、今シーズンは様子が違う。監督シメオネの存在が効いている。
シメオネは昨年の12月末、前任のグレゴリオ・マンサーノに代わって当時11位のチームを引き受け、まず2年ぶり2度目のEL制覇を成し遂げた。次に、5位でシーズンを終えた。
そして、今季を迎えるにあたっては、気の利いたオファーさえ届けば主力を平気で売り渡すフロントを抑え、半年間鍛えてきたチームの解体を食い止めつつ、必要な補強を行なった。
つまり、昨季終盤に掴んだ上昇気流を逃さないよう、チームとクラブをうまく操縦したわけだ。
「相手に考える時間を与えない」中盤のプレッシャー。
もちろんそれだけではない。テクニカルな手腕も昨季以上に冴えている。
シメオネのサッカーは守備が基盤であり、11人が同調してコンパクトな陣形を保つ。そうしておいて中盤で強烈なプレッシャーをかけ、相手の動きを読んでボールを奪う。
「こっちが小さくまとまっていると、相手はピッチの中央で自由にボールを動かせなくなる。ライン間のスペースが減り、プレイの選択肢が減ってしまうだけでなく、そのわずかな選択肢をこちらの中盤が予測するからだ。全体をコンパクトにして、フォワードたちがしっかりプレッシャーをかけると、敵の出方が読みやすくなる」
こう語るチアゴによると、練習において選手は「相手に考える時間を与えないこと」を徹底させられるが、これはシメオネ自身が「現役時代はチームの組織的な守備をバックに、中盤で非常にアグレッシブに敵を追うファイター」だったからだという。
驚異的な得点力を誇るファルカオがチームを波に乗せる。
一方で、ボールポゼッションにはこだわらず、今季これまでの公式戦10試合で、敵を上回るボール支配率を記録したのは3試合しかない。それなのにリーガではバルサに1点差と迫る18得点を記録している。
こちらはグアルディオラが「ペナルティエリア内では世界最高のフォワード」と称したファルカオのおかげだ。
現チームの攻撃力とプレイスタイルを考えると、ファルカオのパフォーマンスは驚異的である。
リーガ初年度の昨季いきなり24得点した彼は、今季に入っても8月末のUEFAスーパーカップではハットトリックを達成し、リーガではすでに8ゴールを決め、メッシやクリスティアーノ・ロナウドと並んで得点ランキング首位に立っている。
実際のところ、ファルカオがいなかったらアトレティコがこれほどの勢いに乗ることも、監督シメオネの勝率がクラブ史上最高の68.2%に達することもなかっただろう。
ファルカオのゴールが見られるのは今季限り!?
ただそれだけに、まだ10月だというのに、早くもきな臭い“今後”が予見される。
なにしろ実の父親はレアルへの移籍希望を匂わし、チェルシーは5700万ユーロ(約57億円)のオファーを用意し、アトレティコの取締役のヒル・マリンは「ファルカオを売って6000万ユーロ(約60億円)手に入ればクラブの財政的な問題は全て解決する」と公に語っているのだ。
それでも、少なくとも今季いっぱい、シメオネとアトレティコのファンはファルカオのゴールを当てにできるはず。
シメオネとファルカオがいる強いアトレティコは果たしてバルサとレアルの2強体制に風穴を開けられるのか。千載一遇のチャンスをモノにできるのか。
第一の山場はそれぞれとの直接対決が行なわれる12月にやってくる。
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