アトレティコ・マドリーは、11月4日(火)に新たな相手と対戦します。クラブ創設から120年以上の歴史の中で、アトレティコがロワイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ(RUSG)と顔を合わせるのは、これが初めてのことです。このベルギークラブは、実はアトレティコよりも古く、1897年にブリュッセルのサン=ジル/フォレ地区で創設されました。それでも、両者はこれまで一度も対戦していませんでした。
それも無理はありません。ブリュッセルのクラブは長らくヨーロッパの舞台で目立つ存在ではありませんでしたが、ここ6~7年の間に国内で再び存在感を示すようになりました。
RUSGは確かにベルギーサッカーの歴史あるクラブであり、優勝回数も12回を数えますが、その多くは1903年から1935年の間に記録されたものでした。さらに、昨シーズンに久々にタイトルを獲得するまで、実に90年間もの空白がありました。伝統あるビッグクラブ(アンデルレヒト、クラブ・ブルッヘ、スタンダール・リエージュ)による長年の支配を破ったことは、まさに新風でした。
RUSGはベルギーカップを3度制しており、直近では2023-24シーズンに優勝。そして2024年にはベルギースーパーカップも獲得し、まさに黄金期を迎えています。その立役者が、新オーナーであり、ポーカーのプロとしても知られる実業家トニー・ブルーム氏です。彼はイングランド・プレミアリーグのブライトン&ホーヴ・アルビオンのオーナーでもあり、この成功の建築家といえる人物です。彼が掲げる哲学の核にあるのが、統計分析――いわゆる「ビッグデータ」と人工知能(AI)の活用です。これは彼がポーカーのプロとして培った分析的思考とも深く関係しています。
この手法は、映画『マネーボール』を思い出させるかもしれません。オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンが、ビッグデータ分析を駆使して限られた予算でも強力なチームを築き上げた実話を描いた物語です。
アトレティコ戦を前に、RUSGの監督ダヴィド・ユベール氏はこの分析手法の重要性を語りました。「これは新しいトレンドというより、ますます広がり、正しく使えば成功するものです。データは多くのことを明らかにしてくれ、私たち監督の考え方を変える助けになります。ゲームや選手に関する知識を深め、補強でも役立ちます。求めるポジションにどんな選手が適しているかを見極める助けになるのです。ただし、データだけでは不十分です。サッカーは映像を見て、話を聞いて、感じ取ることが重要です。チームスポーツですから、それぞれの人間がどうチームに溶け込むかを見る必要があります。私たちは多角的に見ています。データは強力な助けになりますが、最終的には人を見る目を持たねばなりません」
再評価と選手売却
この手法により、RUSGは見事な補強と売却ビジネスを展開してきました。
例を挙げると――
・ビクター・ボニフェイス:300万ユーロで獲得し、レバークーゼンへ2300万ユーロで売却
・三笘薫:現在ブライトンのスター選手
・デニズ・ウンダヴ:フリーで加入し、ブライトンへ800万ユーロで移籍
・テディ・トゥマ:40万ユーロで獲得し、ランスへ700万ユーロ超で売却
成功の鍵は、ブルーム氏の所有するコンサルティング会社「ジェームズタウン(Jamestown)」の存在です。この会社は、単なるゴール数やアシスト数といった表面的な数字にとどまらず、選手のプレーをより深い文脈で分析します。「将来的な成長曲線の予測」や「付加価値ベースの指標」を用いることで、潜在能力を見抜きます。
さらに、資金力で大クラブに劣るため、注目度の低い国やリーグを重点的に調査し、安価な“掘り出し物”を見つけるのです。補強候補は、能力やプレースタイルだけでなく、性格やクラブ文化への適応力まで含めて評価されます。
こうして、低コストで獲得した選手が成長・評価を高め、高額で売却され、その資金が再投資されるという循環が生まれているのです。
“敬意あるアパッチ”たち
このクラブのもう一つの特徴は、愛称「レ・アパッシュ」にも表れる労働者階級的なルーツと、地域コミュニティへの深い結びつきです。
RUSGはどんなときも、忠実なサポーターへの敬意を失いませんでした。10年足らず前、このチームは4部リーグにいましたが、それでもファンの愛情が途絶えることはありませんでした。
現代サッカーでは敵対的な雰囲気が主流ですが、RUSGはその逆を行きます。スタッド・ジョゼフ・マリエンでは、敵チームとの友好を促進し、スタンドでは試合というより「お祭り」のような空気が漂います。相手チームへのブーイングや罵声は好ましくないとされているのです。
RUSGは、データ分析と人間性、そしてリスペクトの精神を見事に融合させた、現代でも稀有な“人間味あるクラブ”なのです。

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