今季のUEFAチャンピオンズリーグ決勝では同じ街のチーム同士が対戦することになったが、25日にリスボンでの大一番に臨むのは欧州各国を代表する選手たちだ。イタリアやウェールズ、ドイツ、クロアチア、ベルギー、トルコ、そしてポルトガルの様子を紹介する。
イタリア
マドリード・ダービーはイタリアでも街を二分した応援合戦を巻き起こしそうだ。ACミランとASローマのファンがカルロ・アンチェロッティ監督率いるレアル・マドリーCFのサポートに回ると思われる一方、FCインテル・ミラノとSSラツォオのファンはクラブ・アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督がトロフィーを掲げるところを見たいと願っているはずだ。アンチェロッティ監督は選手時代にローマでスクデットを1度、コッパ・イタリアを4度獲得。その後ミランで欧州チャンピオンズカップを2度手にすると、監督としても同クラブを2度の欧州制覇へ導いている。「カルロの健闘を祈っているよ」とミランのクラレンス・セードルフ現監督は言う。「彼のマドリーが優勝したら、とても嬉しいね」
ウェールズ
スペイン各紙はガレス・ベイルの実力をすぐには認めなかったが、ウェールズの人々は母国の新しい英雄のマドリーでの成功を最初から疑っていなかった。クリス・コールマン監督率いる代表チームで活躍するベイルは、ウェールズ代表への期待を膨らませつつ、マドリーでのプレーも母国で大いに注目されている。
欧州チャンピオンズカップまたはUEFAチャンピオンズリーグの決勝でプレーしたウェールズ人選手は、過去に4人のみ。24日の大一番でベイルが活躍すれば、ウェールズのメジャートーナメント本大会初出場への期待はますます高まるはずだ。マドリーが支払った高額の移籍金も正当化されるだろう。
ドイツ
レアル・マドリーのサミ・ケディラに対するドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督の期待は、非常に大きい。仮メンバー発表時に、守備的MFのケディラだけは、ブラジルへ連れて行くのは状態が完全な選手のみという原則の例外だと説明したほどだ。もちろん、負傷のため実戦から遠ざかっているケディラがリスボンでプレーすれば、ドイツ代表のスタッフは喜ぶだろう。シャビ・アロンソが出場停止となっているだけに、その可能性は十分にある。「土曜日まで、ケディラにとって重要なのは“ドイツ”でなく“デシマ”(10度目の欧州制覇)だ」。ドイツの『シュテルン』誌は、ウェブ版でこう書いた。「ケディラがチャンピオンズリーグの決勝でプレーすることには、ドイツ代表の練習キャンプの初日に参加すること以上の価値があるだろう」
しかし、『フランクフルター・ルントシャウ』紙は、カルロ・アンチェロッティ監督の次の発言を引用し、ケディラが先発出場する可能性は極めて低いという見方を示した。「彼はファンタスティックでプロフェッショナルな仕事をしてきた。だが、あまり試合をこなせておらず、それだけが問題だ」。同紙はさらに続けた。「監督は、出場停止のシャビ・アロンソの代役には、ケガで長期離脱していたドイツ代表のケディラでなく、アシエル・イジャラメンディを起用する可能性が高いことを示唆している」
クロアチア
リスボンでの決勝にクロアチア人選手が勝ち上がるのは、マリオ・マンジュキッチを擁するFCバイエルン・ミュンヘンがルカ・モドリッチのマドリーと対戦した準決勝の時点で確実になっていた。欧州カップ戦の決勝に勝ち上がったクロアチア人選手は、1980年のイバン・ブリアン(ハンブルガーSV)から昨季のマンジュキッチを経てモドリッチで15人目となる。
これまでに優勝経験があるクロアチア人選手は、ロベルト・プロシネチュキ、アレン・ボクシッチ、ズボニミール・ボバン、ダボル・シュケル、ダリオ・シミッチ、イゴール・ビシュツァン、そしてマンジュキッチの7人。モドリッチを現在のクロアチア最大のスターとして評価するファンやメディアは、史上8人目の戴冠を成し遂げ、その勢いに乗ってブラジルでのワールドカップを迎えてもらいたいと期待している。
ベルギー
アトレティコのティボ・クルトワとトビー・アルデルワイレルトがリスボンでの大一番に出場すると、久々にベルギー人が決勝の舞台に立つことになる。欧州チャンピオンズカップ時代を含めて決勝に勝ち上がったベルギー勢はクラブ・ブリュージュKVだけで、1978年の決勝ではリバプールFCに0-1で敗北。ベルギー人審判のアレクシス・ポンネ氏が主審を務めたその9年後の決勝では、GKジャン=マリー・パフを擁するバイエルンがFCポルトに1-2で敗れている。
ベルギー人選手が初めてタイトルを手にしたのは1988年で、DFエリック・ゲレツはPK戦の末にSLベンフィカを下したPSVアイントホーフェンの一員だった。そしてUEFAチャンピオンズリーグ発足1年目には、最年長優勝記録保持者のレイモン・ゲタルス監督率いるオリンピック・マルセイユが欧州を制している。最近ではダニエル・ファン・ブイテンがバイエルンの一員として3回決勝に進出しているが、2010、2012年は敗北。ボルシア・ドルトムントを下して栄冠を手にした昨季は、ベンチに控えながらも出場機会に恵まれなかった。欧州における自身の成功が祖国にとっても重要な意味を持つと考えるクルトワは、アトレティコが優勝した2012年のUEFAヨーロッパリーグ決勝後にスタンドのファンから国旗を受け取り、「ベルギーを誇りに思う」と語った。
フランス
ピレネー山脈の向こう側、とりわけワールドカップに臨むフランス代表が合流したクレールフォンテーヌ練習場では、今回の決勝に大きな注目が集まっている。レ・ブルー(フランス代表の愛称)を率いるディディエ・デシャン監督に「絶好調だ」と言わしめたのが、レアル・マドリーに所属するカリム・ベンゼマだ。UEFA EURO 2012本大会では無得点に終わったものの、代表戦の最近5試合で4得点を挙げている26歳のFWは、ブラジル大会でチームの大黒柱として活躍することが期待されている。「リーダーにならなければいけない選手だ」と語ったのは、テレビの解説者を務める元FWのオマール・ダ・フォンセカ氏。「今季の調子から考えても、彼に対する期待感が高まっている」
決勝に先発するかどうかは微妙ながらも、マドリーとフランス代表の将来を担う逸材として期待されているのがラファエル・バランだ。この21歳のCBは代表戦の過去5試合で大きなインパクトを残しており、ベテランのエリック・アビダルを差し置いてワールドカップ最終メンバーに選ばれた。
トルコ
負傷欠場が噂されるアトレティコの2選手うちの1人ではなかったとしても、アルダ・トゥランに注目が集まることに不思議はない。ガラタサライASからアトレティコに移籍した1年後、2012年のUEFAヨーロッパリーグ決勝でチームの勝利に貢献した27歳のウインガーは、史上初めてUCL優勝杯を掲げるトルコ人選手になる可能性があるからだ。今回の決勝でアトレティコが栄冠を獲得すれば、UCL勝者の出身国数は40を超える。アルダ以前にUCL決勝に出場したことがあるトルコ人選手には、ユルドゥライ・バシュトゥルク(バイヤー04レバークーゼン、2002年)、ハミト・アルトゥントップ(FCバイエルン・ミュンヘン、2010年)、ヌリ・シャヒン(ボルシア・ドルトムント、2013年)らがいるが、いずれも優勝することはできなかった。
さらにトルコの『ヒュリイェト』紙には、先週末にアトレティコが行った優勝祝賀会の様子も記載。国旗を身にまとったアルダ・トゥランが踊りながらステージに登場すると、トルコ国旗が振られる場内にはトルコ人歌手タルカンのヒット曲『スマルク』が響きわたったと報じられている。
ポルトガル
今回の決勝を前に、ポルトガルは団結と分裂で揺れている。団結の背景にあるのは、このような決勝を開催することに国民として誇りを感じているから。そして自国選手を擁するチーム同士が対戦するため、少なくとも1人が祖国で栄冠を掲げることに誇りを感じられるからだ。しかしその一方で、どちらを応援するのかが分裂の原因となっている。元サッカー選手のヌーノ・ゴメス氏は次のように語った。「個人的には複雑な心境だよ。今でもいい関係を保っている旧友たちの勝負だからね」
ベンフィカのサポーターも難しい決断を迫られている。チアゴとファビオ・コエントランは元イーグルス(ベンフィカの愛称)の選手だが、今回の決勝では敵と味方に分かれて戦わなければならない。一方、クリスチアーノ・ロナウドはこう語った。「レアル・マドリーの選手としてチャンピオンズリーグを優勝することを常に夢見てきた。それを自分の祖国で、しかもエスタジオ・ド・SLベンフィカで実現できるかもしれないという事実は本当に感慨深い」
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