アトレティコ・マドリーの練習場があるのは、街の中心部からバスで40分ほどかかる郊外のマハダオンダ。普段はそこでトレーニングしているのだが、これがたまにビセンテ・カルデロンでのセッションとなる日がある。最初の頃は、「時々ホームの芝に慣れる必要があるのだろう」と私も単純に考えていたものだが、何故かそこで目撃するのは、いつもピッチの端っこを使ってのフットバレーばかり。別に広いピッチを必要とするようなメニューではない。
そこでようやく気づいたのは、何かのプレゼンがあって選手全員の出席が要求される時だけ、スタジアムで練習しているということだった。これまで京セラ、KIA(韓国の自動車メーカー)、Hugo Boss(ドイツの紳士服メーカー)といったスポンサー企業が主催することもあれば、アトレティコ・マドリー財団のチャリティ系イベントの発表会などが行われることもあった。そして先週の金曜は、“エクスポ・アトレティ”のオープニングが行われた。
これは一体、どんな企画かと言えば、スタジアムのスタンドの下にある駐車場スペースに、後援企業やスポーツ紙、ペーニャ(ファンクラブ)のブースがズラリと並ぶというもの。トランポリンや滑り台などで子供が遊べる区画もある。入場は無料、来週の火曜までやっているそうだが、それにしてもいつも気の毒に思うのは、何かというと狩り出されて、セレソ会長のスピーチの壁紙にならなければならない選手達だ。もっともアグエロやリュクサン、ゼ・カストロといったところはテレピッツァ(スペインの宅配ピザチェーン)のブースで、しっかり小腹を満たして帰って行ったが。
そんな光景があまりに呑気すぎるように見えてしまうのは、やっぱりチームの成績が振るわないせいだろう。というのも、大勢の主力選手の長期負傷で苦労したとはいえ、まずまずで終わったシーズン前半戦に比べ、後半戦の彼らはもうボロボロ。今節はヘタフェに快勝したが前節のエスパニョール戦でも負けており、勝ち点45点中たった19点しか取れていないといえば、そのひどさも想像がつく。ここ毎試合、現在彼らが目標のUEFA杯出場圏の6位にいるのはほとんど奇跡という言葉もよく耳にしたものだ。とはいえ、残り4試合をこれまでと同じ調子で乗り切れるかというと…。
「毎年同じ。ここの選手たちは、お給料はたくさん貰っているのに、R・マドリーやバルセロナのように優勝しなきゃいけないプレッシャーがないから、すぐこんなもんかって、現状で満足しちゃうのよ」。練習を見ながらそんな風に怒っていたのは地元ローカル局のアトレティコ・マドリー番TVレポーターのお姉さん。曰く、「ちょっと前までは、チャンピオンズリーグ圏内入りのチャンスもあったのにズルズル後退して、今じゃUEFA杯まで危なくなって。今季は新戦力獲得に5000万ユーロ(約75億円)も使ったのに、やっぱりこのクラブ、どこかおかしいんじゃない」と、さすが何年もこのチームを見ているだけに、その意見もかなり手厳しい。ちなみに彼女の旦那は同系列局のラジオアナウンサー、彼もアトレティコ・マドリーの担当で、私もよく試合中継のナレーションを聴いているのだが、こちらの口癖は「このチームにはサッカーがない」だった。もしかしてこのカップルは、家でもアトレティコ・マドリー批判で盛り上がったりしているのだろうか。
とはいえ、結局は選手たちがやる気にならないことには話にならない。フットバレーの後、パブロ、アグエロ、ペルニアらが交代でGKを務める半分遊びのようなシュート練習を、遠くで眺めていたハビエル・アギーレ監督も、近頃はどうやって彼らをモチベートしていいか、途方に暮れているような感がある。セレソ会長も事あるごとに「選手たちはもっとガッツのあるところを見せないと」と鼓舞しているが、一向に効果はなし。それだけに、木曜に国王杯決勝進出を決めて、ほぼ来季のUEFA杯出場権獲得が確実となったお隣のヘタフェを彼が「羨ましい」と言う気持ちもよく理解できる。
そういえば今週のバルセロナ戦で、「永遠のライバル、R・マドリーに優勝させることになっても勝ちに行くのか?」と問われたヒル・マリン・アトレティコ筆頭株主は、「もちろん今はウチの来季がかかっているから勝たないといけない。でも、そうでなかったらリーガはバルセロナに獲ってもらいたい。R・マドリーが優勝すると、マドリーでアトレティコ・マドリーのプレゼンスが減るし、他のどのチームが優勝してもスペインで3番目のチームとしての地位が揺らぐ」と言っていたもの。それがとうとう今では、それこそヘタフェに抜かれてマドリーで3番目のチームになってしまんじゃないかという恐れさえ出てきた。そんなことにならないよう、せめてヘタフェと肩を並べて、来季こそUEFA杯に行って欲しいものだが…。
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