それほどいいゲームをしている訳ではないのに、何故か順位は来季のヨーロッパの大会出場権を得られる5位。現在のアトレティコ・マドリーがそんな上位を保っていられるのは、20試合を終えてリーガ2位という失点の少なさが大いに関係している。つまりチームの守りがしっかりしているのだが、中でも近頃注目を集めてきた選手がいる。それはゼ・カストロ、ポルトガルのアカデミカ・デ・コインブラから、今季移籍してきた23歳のセンターバックだ。
昨シーズンまでは、アトレティコ・マドリーのCBというとパブロとペレアで決まりだった。それぞれスペイン代表、コロンビア代表というインターナショナルなレベルの実力の持ち主だけに、リーガでも1、2を争う名コンビと言われたもの。従って若いゼ・カストロの獲得はあくまで彼らの控え、将来の成長を楽しみにという意味合いが強かった。実際、リーガデビューもパブロが負傷欠場した11月のビジャレアル戦と、かなり時間がかかっている。ところがその試合で彼は、サポーターから賞賛を浴びることに。華奢に見える身体つきのせいでハードなプレーに弱いという先入観を見事に覆し、おまけに先制ゴールを挙げる大活躍と、以降スタメンから欠けることはなくなった。
そんなゼ・カストロの表舞台への登場は、最初の頃こそパブロやペレアにケガや出場停止処分が続いたために、世間も穴埋め的に使われているのだろうと解釈。それが試合数を重ねるごとに、見ていて一番安心できるCBに成長した。もちろんハビエル・アギーレ監督の信頼も勝ち取って、今では2人に支障がなくても、レギュラーはゼ・カストロ。ベンチに座るのは、共にアトレティコ・マドリーでの出場試合数が100を越える先輩のどちらかとなった。累積プレー時間も、ここ11試合連続先発したおかげで1020分と、ペレアの1436分、パブロの1125分に迫りつつある。
ちなみに彼の何がそんなに評価されているかというと、パブロも「ボール出しが上手い。ペレアも自分もそれが苦手だから」と言っていたように、まともなパスを中盤や前線に送って、攻撃の起点になれるところに尽きる。今季序盤のアトレティコ・マドリーの試合を見たファンならば、ペレアとパブロがDFラインで互いに横パスをやり取りするだけか、思い切ってボールを前に蹴れば敵方の選手目がけてまっしぐらといったシーンに、イライラさせられた経験がきっとあるはずだ。それがゼ・カストロがパスを出すとちゃんと味方に届くのだから、チームにとってこれほどありがたいことはない。
その上、彼にはスピードもある。敵ボールをカットに行っても、遅れて足にタックルしたりしないので、前節のラシン戦まで1度もイエローカードを貰ったことがなかった。弱点と言われている空中戦も、身長202センチのFWジギッチをマークしなければならなかったそのラシン戦ではハイボールに強いパブロと組ませるなど、その辺は監督の配慮もバッチリ。シーズン前半最後のオサスナ戦で殊勲の決勝ゴールも挙げるなど、セットプレーで攻撃参加しても頼りになるのだから、アトレティコ・マドリーもいい買い物をしたものだ。「目標は来季のチャンピオンズリーグ出場(リーガ4位以上)」と、本人の夢が大きいのも何だか頼りになる。
冬の移籍市場では、インテルナシオナル・ポルト・アレグレ(ブラジル)で昨年12月のクラブW杯優勝も経験したベテランDFエレルも獲得。とうとうアギーレ監督の望み通りに一流CBを4人揃えたアトレティコ・マドリー。「ポジション争いがある方が、チームのレベルも上がる」(ペレア)と、後半戦では更なる守備力アップが期待できる。攻撃陣もフェルナンド・トーレス、アグエロ、ミスタとFWは揃っているので、あとは中盤から前へのゲームメイクができる誰かがいれば、今の順位を維持するのもずっと楽になるのだが…。
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