サポーターも待っている?!新監督効果

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「ニーニョ!明日は一発決めろよ!」。久々にマハダオンダ(マドリード近郊)にあるアトレティコ・マドリーの練習場に足を運んでみると、金網越しに檄を飛ばすサポーターのオジサンの大声が聞こえてきた。そこで中を走っているフェルナンド・トーレスに目をやってみれば、おや? また髪型が変わっている。それまで長めの金髪をヘアバンドで止めていたが、今度は頭頂部を短くして随分すっきりした感じだ。それで以前本人が、「何か上手くいかないことがあると、髪型から服から全部変えてみる」と言っていたのを思い出した。確かに今のチーム状況では、心機一転でシーズン後半戦のスタートに挑みたくなるのも当然だ。

朝10時半とあってまだ気温は低いものの、その日は気持ちの良い快晴。ペペ・ムルシア新監督体制になってから初めて練習を見に来たが、選手たちのムードが明るいのはどうやら天気のせいだけではないらしい。最初はどこに新監督がいるのかわからなかった。思わず「どれが監督?」と例のオジサンに訊くと、「そこ。アントニオ・ロペスと走っている」という答えが。

「若いからまだ走れるんだよ」とは、いつもグラウンド中央で腹筋ばかりしていたビアンチ前監督への皮肉だろうか。確かに41歳のペペ・ムルシア監督は、ビアンチより活動的、そして頻繁に選手たちとのコミュニケーションを取っている。アントニオとも何やら親密そうに話しながらのランニングだ。

今月12日に彼がアトレティコ・マドリーを引き継いだ時出会ったのは、「精神的に死にかけているチーム」だった。それが結果こそ0-1敗戦だったが、新監督デビュー戦となった19節ベティス戦では、勝利を決して諦めない粘りあるプレーを見せて好印象を残した。おそらくそのおかげもあって、練習中の彼らの雰囲気も前向きになってきたのだろう。

ドリブル、パス交換などのアップ後は、守備陣と攻撃陣に分かれて2対1、3対2と徐々に人数を増やしながら、最後は11対11で争うゲームに。続いてCKやFKからのセットプレー攻撃と、これまで9戦白星なしの原因がゴール不足にあることは充分承知というメニューが続く。

しかし、もっとも目を惹いたのが、ファルコン、ロベルト(2人もBチームのGK)のナイスセーブというのはちょっと悲しい。いつもBチームの試合を見ているという通のオジサンは「今、アトレティコで一番いいGK」と誉めていたが、肝心のアタッカーたちの決定力はやはり一朝一夕では身につかないものらしい。

ただし、ムルシア監督にはラッキーな面もある。この辺も、監督就任事情がよく似ているレアル・マドリーのロペス・カロ監督(やはりBチーム監督から昇格した)と重なるのだが、アトレティコでも多かった怪我人がちょうど今復帰し始めているということだ。FWケズマン、ボランチのリュクサン、MFガジェッティ、正GKレオ・フランコなどがそれに当たる。実際、翌日の国王杯サラゴサ戦では、ケズマン、ガジェッティのゴールで久しぶりに2得点挙げることができた。

とはいえゲームはサラゴサが2点を先行、結局アトレティコは追いついたところで力が尽きた形だ。第1戦に0-1で負けているので、これで彼らにとって今季の国王杯はもうおしまい。監督は「点を取られても落ち込まずに反撃した選手たちの精神力に拍手する」と誉めていたが、だんだん試合を重ねれば「頑張っているところを見せればいい」では済まなくなってくるはず。選手たちの自信回復には何より勝利が一番の薬。早めに結果を出したいというのが本音に違いない。ただし、レアル・マドリーでさえ新監督効果が出るには1ヶ月近くかかったことを考えれば、焦りは禁物ということか。

ちなみにセレソ会長からは「選手たちの態度を変えたムルシア監督を信頼している。シーズン終了まで彼でいくつもり」と早くもお墨付きが出た。この会長はビアンチ前監督の末期まで同じことを言っていたので、辛抱強いことだけは確かだろう。

「この新しい監督で勝てるようになる?」と練習を見ながらオジサンに尋ねると、彼はただ肩をすくめただけ。表の顔が代わっても中身が変わる訳じゃない。そんなことを言いたかったのだろうか。ここ毎年フラストレーションの溜まるシーズンを送っているせいで、サポーターも半ば諦め気味である。

それでも毎回練習の後の選手用駐車場出口には、ひいき選手のサインを貰おうとたくさんのファンが待っている。彼らをガッカリさせないためにも、ヨーロッパ大会出場圏内(チャンピオンズリーグ、UEFA杯に行ける6位以上)とまで言わずとも、後半戦多少の巻き返しぐらいは見せて貰いたいものだ。

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