8月最後の日曜日、マドリーではビセンテ・カルデロン・スタジアムでリーガが開幕した。というのも、この街にある3チームのうち、R・マドリー、ヘタフェはアウェースタート。従ってスタジアム観戦をしたくば、アトレティコ・マドリー以外ない。ただし相手はサラゴサ、好カードなのかどうかもよくわからない微妙な組み合わせだ。ところが前日のスタジアムのチケット売り場には1日中長蛇の列、今季のアトレティコ・マドリーに対するファンの期待が半端じゃないことを示した。
試合開始までまだ1時間以上あるというのに、スタジアム最寄りのピラミデ駅に向かう地下鉄は赤白ストライプのユニを着たサポーターで満員。周辺のカフェのテラスでもビールを片手に、「今日は何点取るだろうか」「ペトロフ、ケズマンはかなり良さそうだぞ」と、そこここでアトレチコ談義に花を咲く。やはり注目は新規加入選手。さすがクラブがアルゼンチン代表(マキシ、ガジェッティ)、セルビア・モンテネグロ代表(ケズマン)、ブルガリア代表(ペトロフ)と一線級に絞って獲得しただけの甲斐はある。
スタジアムに近付けば近付く程、コルチョネーロ(アトレティコ・マドリーユニのこと)度はますますアップ、中には親子3人でお揃いなんて家族連れも。車両通行禁止になったロータリーではすでに出来上がって大声で歌っているグループも多数、これはもう完全にお祭り状態だ。否が応でもこちらまでウキウキしてくる。
そんな熱気はマハダオンダ(マドリード近郊)にある、彼らの練習場を見に行った時も肌で感じた。まだ夏休み中だということもあるのだろうが、こちらも連日練習を見守るサポーターたちが、グラウンドを囲む金網に鈴なり。退屈な基礎体力トレーニングですら興味津々で眺めているのだから、その関心の高さもわかろうというもの。帰りの駐車場出口ではファンが選手の車を取り囲んでサインをねだるので、その時間付近に渋滞ができるのも珍しくない。
「アルゼンチン人が多すぎるってのは、どうかね」それでも常に懐疑的な姿勢を忘れない年季の入ったファンもいない訳ではない。確かにビアンチ新監督を始め、元々いたGKレオ・フランコ、MFイバガサを加えるともう4人。おまけに冬季マーケットではマシェラーノ(コリンチャンス在籍のアルゼンチン代表)を獲得予定なんて話もあった。何故かと尋ねると、そのオジサンの答えは「彼らは調子のいいことばかり言いすぎる」。
そういえばと思い出せば、今季サラゴサから移籍したガジェッティなど開幕戦で古巣と当たっても、「もちろんゴールを決めたら祝うよ。サラゴサのファンは自分が彼らのことを大好きだってわかっているから大丈夫」とケロッとしていましたし、やはり口が達者なのはお国柄?それでもオジサンは、「でもビアンチ監督は働き者だから好きだ」と言ってくれたが…。
R・マドリーがブラジル人人口を増やして彼の地のファンが増えたように、アトレティコ・マドリーのアルゼンチン人ファンも着々と増加中。その日満員のスタンドには空色のアルゼンチン代表ユニ姿もチラホラ。何せ率いているのが母国でボカを何度も優勝に導いた名監督だ。サッカーに疎い友だちのアルゼンチンの女の子ですら、「ビアンチは最高!」と手離しで誉めていた。
ただし、お祭りがそのまま大団円で終わらないところが、いかにもアトレチコ的。試合は何度かあったチャンスを、ケズマンやフェルナンド・トーレスが物の見事に失敗して、結局スコアレスドロー。ビアンチ監督もこれには「許容できる程度にはシュート精度を高めないと」と苦い顔。せっかく張りきって応援していたサポーターたちがハーフタイムを過ぎる頃には静かになり、最後は肩を落として帰るところなど、まるで昨シーズンの焼き写しのよう。
「アトレティコ・マドリーにはいい選手が来ても活躍できなくなっちゃう呪いでもかかっているの?」思わず一緒にいたアトレティコ・マドリーファンの友だちに訊くと、「いや、最低5試合は見ないと」とその辛抱強さは見上げたもの。今年こそそんな彼らが大勝利に祝杯を挙げているシーンに何度も出会えたらと願ってはいるのだが…。
コメント