ディエゴ・シメオネ監督が、自身のフットボール観について濃密に語った。
シメオネ監督は母国アルゼンチン『オレ』とのインタビューに応じ、決してぶれることのない信念から自身のフットボールに対する考えを口にしていた。アルゼンチン人指揮官によれば、フットボールは24時間、休みなく考え続けられるものなのだという。
「フットボールは24時間営業、そういうものなんだよ。誰かが寝ている間に誰かが起きている。起きている方は考えを巡らせ、眠っている方は……。つまり起きている方が有利というわけだ。だか気をつけなければならない。フットボールは娯楽に全身が浸ることを許さないのだから」
「例えば映画館に赴き、見る映画が1時間半続くとしたら……。作品は非常に素晴らしかったとしても、少し緩慢やだらけたところがあれば、一体誰がプレーするのか、ジョアン(・フェリックス)とコレアのどちらがプレーするのかを考え始めてしまう。そのことを隣の人に話すのは難しい。しかし自分の頭は休憩しても眠ろうとしても考えることをやめられない。私のリラックス方法や眠りにつく方法は、多くの場合どんなチームを組むかという想像なんだ」
またアトレティコ指揮官として過ごす1日の流れも説明している。
「朝は練習前に、これから行うことの見直すためにZoomで集合する。練習は11時に始まるからね。その後には次の日に行うべきことの準備について話し合う。エルナン(・ボンビシーニ第三監督)とネルソン(・ビバス第二監督)とは何度も連絡を取り合うんだ。本当に色々なことが起こっていくわけだからね。週の始まりに彼らに対してこういう形でプレーしようと話しても、スタメンを組むときには大体いつも月曜に話したことと同じ内容になっていない。それが私たちであり、そうやって最高の解決法を見つけ出していく」
対戦相手の分析などは、どのように行っているのだろうか。
「相手でも自チームでも試合を見て、じっくり見て、また見直す。初見では自分たちをより良くするための細かなディテールを見つけられないこともあり、だから繰り返し見ることで発見していく。例えばリヴァプールと対戦するとしたら、8試合目をみたときに彼らに打撃を加える方法を見つけられるのかもしれない」
「私たちが求めような試合の断片を送ってくれる人たちがいる。自分たちと相手の攻撃と守備のシチュエーションをメールで送ってくれるんだ。そこから私が見なければならないところを確認して、エルナン、ネルソンと決めなくてはならないこと、まとめるべきことを整然と話し合う。そうしたら、あとは気晴らしとして試合を見るよ。横になりながらテンペルレイとアルマグロの試合を見て、妻から何を見てるのと聞かれて、こう言うんだ。『パルティダッソ(最高の試合)』ってね。どんな試合だってそうさ」
シメオネ監督とアトレティコとの契約は2024年まで。契約を全うすればアトレティコで14年指揮官を務めたことになり、レアル・マドリー元監督ミゲル・ムニョス氏が保持するスペインフットボールの記録に並ぶ。
「私たちはいつも考えを巡らせてきた。レアル・マドリーで14年指揮したミゲル・ムニョスについては考えていなかったがね。私が唯一求めるのは、自分の好きなものを目にすること、自分がピッチ上で欲するものについて選手たちと考えを通わせることにほかならない。何の試合かは重要じゃないんだ」
「親善試合でもコパ・デル・レイでもチャンピオンズ決勝でもヨーロッパリーグでも……私たちは競わなくてはならない。なぜならば明日の世の中、新聞でアトレティコ・マドリーというチームと、その結果が出ることになるのだから。大切なのは誰がプレーしたかではなく、アトレティコ・マドリーが勝ったか、それとも負けたか。それが最初に出る情報というわけだ。勝った、または負けたということが、私たちが言葉を使うことなく伝えようとしている事実なんだよ」
その一方でシメオネ監督は、選手たちと関係を構築する鍵についても語っている。
「選手たちには、ピッチ上で起こることだけが事実と理解してもらいたい。一人ひとりと話をして、説明をするのは好まない。そうすれば最後には嘘をつくことになってしまうからだ。私たちは火曜、土曜、火曜、土曜と試合をこなしていく……。毎日、全員に対して『あいつがあいつの代わりにプレーをする。私はそう考えているんだ』などと言ってどうなるのか……。私も選手だったし、どんなことを言われるにしても自分が望むのはプレーすることにほかならなかった。問題は監督のものだろう。自分のしていることを正当化するための説明なんて必要ないんだ。グループに対しては、自分が勝利を求めていることを理解してもらわないといけない。勝利以外に大切なものはなく、だから誰とも約束は結ばない」
「私と選手は2人とも勝利を欲しているために結びついている。そこから関係が生まれるならファンタスティックだが、どちらかが境界線を破ってしまうことには気をつけなくてはならない。目標はその薄い境界線を破らず、どちらも自分の場所を守ることにある。私が弱さを露呈したり、相手が境界線を越えようとすれば、それぞれの場所は破壊されてしまうんだ。私たちはゴディン、コスタ、トゥラン、ガビといった男たちと共存してきたが、それは自分たちの場所を保ってきたからにほかならない。ときに誘惑が生じて、とりわけ監督の方からその境界線を越えてしまうのならば、もう戻ることはできないだろう」
シメオネ監督はまた、アトレティコも欧州を代表するビッグクラブのように勝利が義務付けられていること、少なくともそういう気持ちで試合に立ち向かう必要があることを強調した。
「これは、いつも言っていることなんだ。バイエルンに移籍したとしたら勝利する以外の選択肢はない。それはシティでもバルセロナでもマドリーでも同じだが、なぜアトレティコだと違うんだ? そうやって競う気がないならば違う場所に行けばいい。必要不可欠なのは監督や選手たちではない。必要不可欠なのはクラブであり、そのことを理解しなければならない」
「しかし常に勝利するためにはどんな準備が必要になると思う? 心地よさ、というのは違う。心地よさはプレーするのをやめたとき、何でもできるような場所に移ったときにあればいい。私たちは厳しい要求の中で成長することを望み、まず何よりも私たち自身で厳しくなくてはならない。厳しさを求めているのは、選手たちにほかならないのだから。そのために私たちは(プレーシステムを)変えたんだ。現在の私たちは4-4-2がモノトーンであることに気づいた。もう、それでは相手を驚かせることができなくなっていたし、重苦しさを感じていたんだよ。だから今は5-3-2、4-3-3、5-4-1などを使用して転換を図っている」
シメオネ監督は勝利至上主義という側面が強調される人物だが、どちらもレアル・マドリーに敗れた2回のチャンピオンズリーグ決勝については、自チームのプレーに誇らしさを感じたことを強調してきた。その二つは矛盾することではないかと指摘されると、こう返答している。
「その二つの要素が相反するわけではない。私は勝とうが負けようが、行なってきたすべての努力に誇らしさを感じたんだ。たどり着いたチャンピオンズ決勝で1回目は92分、2回目はPK戦で敗れたわけだが、私は誇らしく思っている。しかし勝ちたかった。私たち全員が美しいプレーと勝利のどちらがより重要なのかという議論に参加しているが、私からは『嘘をつかないでくれ』と言わせてもらいたい。最後の最後に行われる試合で、プレーの良し悪しは大切じゃない。良いプレーをして負けるのではなく勝利を望むはずだろう。この論争を生み出しているのは論争好きな連中だったり、蔑んだ考え方や異なる形で仕事に取り組んでいる連中だ」
「悪いプレーで優勝を達成したチームがこれまでいたか? それは難しいことだろう。全員を納得させられないプレースタイルを実践してもいいのか? イエスだね。フランスは後退からカウンターを仕掛けて世界王者になり、その一方でスペインは美しくプレーしながら王者となった。しかし重要な試合で何点を決めて勝っていったと言うんだ? 1-0、2-1、またはPKだったり……最小点差の勝利だ。つまるところ、私たちは嘘をつかれる場所から立ち去らなくてはいけないんだよ。私は良いプレーでもって勝利したい。が、選手たちが良い試合を実現できない日にはプランBが必要となる。リーグ戦の優勝を果たすためには、勝利に値しない試合で勝利していかなくてはならない。コパ・アメリカやW杯の10試合では、10戦全部で悪い試合を演じるわけにはいかないし、そんなことをすれば優勝には届かない。しかし悪いプレーを見せてしまう困難な試合でも勝たなくてはならないんだ」
前妻との間に3人の息子をもうけたシメオネ監督は、現在の妻カルラさんとは2人の娘に恵まれた。その生活は、どのようなものなのだろうか。
「再び恋をして結婚したわけだが、それが私の妻カルラと家族を築く道であるとの理解があった。すべてが完璧だよ。今、私には3人の息子と彼女たちがいる。もちろん、娘たちは私に厳しい要求をしてくるだろう。女性というものは厳しいものだからね……。娘たちは私の存在をより必要としているようだ。息子たちはボールを使って遊べばよかったが娘たちは……。『この遊びをしましょう。次にこれで、今度はこの遊びで、その次はこうで』と、息子たちのように逃げられない。息子たちはボールがあれば違う世界に行ってくれたのにね」
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